SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス
三か国から同時に課税されていると感じるとき — 構造の読み方
2026-09-16
「日本、母国、そして米国。三つの国から同時に取られている気がする」— 日本で法人を営み、母国に賃貸用不動産を持ち、米国に投資口座を残している方から、私たちはこの種の相談を繰り返し受けてきました。
体感としては、部分的に正しいと言わざるを得ません。同一の所得が二か国以上で課税対象になることは、実際に起こります。所得税法第7条第1項第1号は、非永住者以外の居住者について「全ての所得」を課税所得の範囲と定めており、母国にある不動産から生ずる賃料も、原則としてここに含まれます。他方で、その不動産の所在地国は自国を源泉とする所得として課税し得ます。重なりは制度の不備ではなく前提であり、外国税額控除や租税条約は、この重なりを調整するために置かれた仕組みです。
ただし、負担の重さの主因が税率そのものであることは多くありません。実際には、どの所得がどの国の、どの区分に置かれているかが整理されておらず、その結果として調整の仕組みを使い切れていない、という状態が大半です。
前提 — 口座情報は動くが、経路は国の組合せごとに違う
まず出発点を確認しておく必要があります。日本国内の制度として、租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律第10条の6は、報告金融機関等に対し、その年の十二月三十一日において報告対象契約を締結している者について、特定対象者の氏名・住所・特定居住地国、契約に係る資産の価額、その運用・保有・譲渡による収入金額等を、翌年四月三十日までに所轄税務署長へ提供することを義務づけています。口座情報が本人の申告とは別の経路で当局に集まる仕組みは、法律上すでに動いています。
ただし、そこから先 — 集まった情報がどの国へ、どの範囲で、自動的に渡るのか — は、国の組合せごとに異なります。共通報告基準(CRS)に基づく自動的交換は参加法域の間で働く枠組みであり、参加していない国との間では別個の取決めによることになります。したがって「どこからも見えない」という前提で構造を置くことはできず、他方で「すべての国が同じように見えている」と一般化することもできません。実務上の出発点は、自分の資産が置かれている国の組合せごとに、どの枠組みが働いているかを個別に確認することです。
いずれにせよ、検討の対象になるのは常に「適正に申告したうえで、構造をどう置くか」です。
日本側 — 個人で受けるか、法人で受けるか
日本国内の事業所得については、所得税法第27条が、事業から生ずる所得を事業所得と定義し、総収入金額から必要経費を控除した金額をその金額とすると定めています。個人がこれを直接受ける場合の税率構造と、法人を通す場合の税率構造は、別々の条文の上に置かれています。
| 区分 | 根拠条文 | 税率 |
|---|---|---|
| 個人の所得税(最高税率) | 所得税法第89条 | 4,000万円を超える金額に45% |
| 個人住民税(所得割・標準税率) | 地方税法第35条・第314条の3 | 道府県民税4%+市町村民税6%(指定都市は2%+8%) |
| 法人税(本則) | 法人税法第66条第1項 | 23.2% |
| 法人税(資本金1億円以下、年800万円以下の部分) | 法人税法第66条第2項 | 19% |
| 同部分の特例 | 租税特別措置法第42条の3の2 | 15%(所得の金額が年10億円を超える事業年度は17%) |
所得税法第89条の税率表では、最高税率は4,000万円を超える金額に対する百分の四十五です。これに住民税の所得割が加わります。地方税法第35条は道府県民税につき百分の四(指定都市の区域内に住所を有する場合は百分の二)、第314条の3は市町村民税につき百分の六(同じく百分の八)を標準税率としており、いずれの場合も合計は百分の十です。所得税と合わせて約55%という数字は、この二つの条文の組み合わせから出ています。
法人側は別の構造です。法人税法第66条第1項が本則税率を百分の二十三・二とし、同条第2項が、事業年度終了時の資本金の額が一億円以下である普通法人等について、年八百万円以下の部分に百分の十九を適用すると定めています。租税特別措置法第42条の3の2は、この百分の十九をさらに百分の十五に読み替えます(ただし所得の金額が年十億円を超える事業年度については百分の十七)。
ただし、この軽減は誰にでも及ぶわけではありません。まず法人税法第66条第5項が、同項各号に掲げる法人について「第二項の規定は、適用しない」と定めています。したがって、上表の19%の行も資本金の額だけで決まるものではなく、同項に該当しないことが前提です。同項が列挙するのは、相互会社、資本金五億円以上の大法人等による完全支配関係がある普通法人、受託法人、投資法人、特定目的会社などです。そのうえで措置法第42条の3の2の柱書が、法人税法第66条第5項各号に掲げる法人に加え、適用除外事業者と通算法人を15%の対象から除いています。また「適用除外事業者」とは、措置法第42条の4の定義によれば、当該事業年度開始の日前三年以内に終了した各事業年度の所得金額を年換算した平均額が十五億円を超える法人をいいます。さらに同条の特例は適用期限が定められた時限措置です。
つまり「法人にすれば税率が下がる」という理解は、前提条件を伴います。資本金の額、資本関係、直近三年の所得水準 — いずれも構造の設計時に確認すべき事項です。
加えて、法人から自分自身へ役員報酬として支払う部分は、自動的に損金になるわけではありません。法人税法は、役員に対する給与のうち一定の類型に該当しないものの額を損金の額に算入しないと定めており、支給時期・支給額の定め方が要件になります。個人と法人の税率差だけを見て設計すると、この要件で前提が崩れます。
母国側・米国側 — 区分が違えば扱いが違う
母国に賃貸用不動産がある場合、賃料収入がその国の所得税法上どの所得区分に落ちるかが出発点になります。中国の個人所得税法では、財産賃貸所得は総合所得とは別に、比例税率20%が適用される区分に置かれています。個人で受けるか法人を通すかで、控除できる費用の範囲が変わる点も、日本側と同じ構造の問題です。
米国に投資口座を残している場合、被動的外国投資会社(PFIC)に関する規則が論点になるかどうかは、口座が米国にあること自体では決まりません。この規則は、米国の税法上その保有者が米国人として扱われる者であり、かつ保有している銘柄が同法にいうPFICの要件を満たす外国法人の株式に当たる場合に働くものです。したがって確認の順序は、保有者の米国税務上の地位が先、口座の中身がその次であって、口座の所在地は判断の材料になりません。該当する場合、PFICの株式に係る一定の分配や処分益は、通常の譲渡益とは別の計算方法の下に置かれ、また保有者の選択によって扱いが変わり得る余地も設けられています。ただし、どの計算方法が適用されるか、選択によって何がどこまで変わるかは、保有開始の時期やそれまでの経緯にも左右される米国税法上の論点であり、私たちの側で結論を述べる範囲にはありません。米国の有資格者による確認が必要です。
いずれについても、私たちが行うのは日本側の構造整理であり、各国の申告・税額計算はそれぞれの国の有資格者が担当します。
診断の順序
三か国にまたがる状態を整理するとき、順序があります。
- どの所得が、どの国の、どの区分に落ちているか — 税率の比較はその後です
- 個人で受けているか、法人を通しているか — 日本側では税率表そのものが変わります
- 軽減規定の前提条件を満たしているか — 資本金、資本関係、過去三年の所得水準
- 外国で納付することとなる外国所得税を把握できているか — 所得税法第95条第1項の外国税額控除は、外国所得税を納付することとなる場合に、控除限度額を限度として認められるものであり、その適用には日本側の申告書等への所定の記載と書類の添付が求められます。相手国で確定申告まで要するか、源泉徴収で完結するかは、その国の制度によります
「三か国から取られている」という感覚の多くは、この四点が一枚の図になっていないことから生じます。図にすることが、設計の前にやるべき作業です。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。