SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス
「非永住者以外の居住者」— 税法上の区分は在留資格では決まらない
2026-08-11
「永住権が下りたので、これからは全世界の所得を日本で申告することになりますね」— 在日の資産家の方から、私たちはこの言葉を繰り返し聞いてきました。結論だけを見れば当たっていることもありますが、理由が違います。所得税法の条文には、在留資格という言葉が一度も現れません。課税範囲を決めているのは、まったく別の要素です。
所得税法に「永住者」という用語は存在しない
所得税法第7条第1項第1号は、課税所得の範囲について「非永住者以外の居住者 — 全ての所得」と定めています。読みにくい表現ですが、これが条文上の正式な用語です。所得税法の全条文を通じて、「永住者」という語が単独で用いられている箇所はありません。現れるのは常に「非永住者」または「非永住者以外の居住者」という形です。
理由は立法技術にあります。法はまず大きな器として「居住者」を定義し(第2条第1項第3号)、その中の特殊な類型として「非永住者」を定義し(同項第4号)、残りを「非永住者以外」として拾い上げます。特殊を先に定義し、残余を一般とする除外による定義です。実務上の帰結として、「日本の永住者は全世界課税」という説明を条文で確かめようとしても、「永住者」を手がかりに探している限り、該当する条文にはたどり着けません。
区分を決めるのは、住所・居所・国籍・期間
条文の定義を並べると、何が判定要素になっているかが見えてきます。居住者とは「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人」(第2条第1項第3号)。非永住者とは「居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年以下である個人」(同項第4号)。非居住者とは「居住者以外の個人」(同項第5号)です。
登場するのは、住所・居所・国籍・期間の四つだけです。在留資格の種類は、どの区分の要件にもなっていません。
見落とされやすいのが国籍です。第4号は「日本の国籍を有しておらず、かつ」と定めているため、日本国籍を有する居住者は、そもそも非永住者に該当しません。帰化された方は、居住者に当たる限り、日本での居住期間の長短にかかわらず「非永住者以外の居住者」として全ての所得が課税対象となります。もっとも、これはあくまで居住者であることが前提です。生活の本拠を国外に移して非居住者となれば、国籍にかかわらず非居住者としての課税範囲が適用されます。
では「住所」とは何か。所得税法はこれを定義しておらず、民法第22条の「各人の生活の本拠をその者の住所とする」という規定に従って解されています。住民票の所在地ではなく、生活の実態です。所得税法施行令第14条・第15条はさらに推定規定を置き、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業の有無、日本国籍の有無、国内に生計を一にする配偶者その他の親族がいるかどうかを考慮要素としています。なお、これらの条文で「永住」の語が唯一現れるのは施行令第15条第1項第2号ですが、そこで問われているのは外国の法令によるその外国への永住許可であり、日本の在留資格ではありません。
三つの区分と課税範囲
| 区分 | 定義 | 課税範囲 |
|---|---|---|
| 非居住者 | 居住者以外の個人(第2条第1項第5号) | 非居住者の区分に応じて定まる国内源泉所得(第7条第1項第3号) |
| 非永住者 | 居住者のうち日本国籍がなく、過去10年以内の国内の住所又は居所の期間の合計が5年以下(第2条第1項第4号) | 国外源泉所得以外の所得、及び国外源泉所得のうち国内において支払われ、又は国外から送金されたもの(第7条第1項第2号) |
| 非永住者以外の居住者 | 上記以外の居住者 | 全ての所得(第7条第1項第1号) |
なお、期間の要件は「合計が五年以下」と定められています。連続した五年である必要はなく、十年の枠の中で通算し、五年を超えた時点で非永住者から外れます。
税目が変われば、物差しも変わる
所得税法の区分を、そのまま他の税目に持ち込むことはできません。相続税法は「一時居住者」という別の区分を用意しており、その定義は「相続開始の時において在留資格(出入国管理及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格)を有する者であつて、当該相続の開始前十五年以内においてこの法律の施行地に住所を有していた期間の合計が十年以下であるもの」です(相続税法第1条の3第3項第1号)。
所得税法では要件になっていなかった在留資格が、ここでは正面から要件に組み込まれています。期間の物差しも、十年以内・五年以下ではなく、十五年以内・十年以下です。所得税の「非永住者」と相続税の「一時居住者」は、名前が似ているだけの別概念であり、一方の結論をもう一方に流用することはできません。
そして在留資格としての「永住者」は、出入国管理及び難民認定法別表第二の上欄に掲げられた在留資格(「法務大臣が永住を認める者」)であって、これもまた別の体系に属します。三つの「永住」は、同じ言葉を使いながら、それぞれ異なる目的のために異なる要件を定めています。
構造の問題として捉える
私たちの経験では、誤解の多くは在留資格と税務上の区分を同じものとして扱うところから生じています。確認すべきは次の三点です。
- 過去十年以内に、日本国内に住所又は居所を有していた期間は通算で何年か
- 日本国籍を有しているか — 有していれば非永住者の区分は初めから適用されません
- 所得税で得た結論を、相続税・贈与税にそのまま当てはめていないか
在留資格・国籍・居住期間・資産の所在を一枚の構造図に起こし、税目ごとにどの区分へ落ちるのかを分けて確認することが、国際的な資産をお持ちの方の出発点になります。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。