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不動産を「誰の名義で」保有するか — 取得・保有・譲渡・承継の税務構造

2026-08-10

「良い物件が出たので先に押さえます。名義は後で考えます」— 在日の資産家の方から、私たちはこの言葉を繰り返し聞いてきました。税務の観点では、順序が逆です。名義を個人とするか法人とするかは取得の瞬間に確定し、その後の保有期間中の課税、売却時の課税、次世代への承継時の課税まで、すべての段階に影響し続けます。どちらが有利かという結論は賃料収入の規模・保有期間・承継計画によって変わるため一般論としては示せませんが、どこで結果が分かれるのかは構造として整理できます。

取得 — 課税は所有権と同時に始まる

不動産の取得に対しては、当該不動産の取得者に不動産取得税が課されます(地方税法第73条の2第1項)。標準税率は100分の4です(同法第73条の15)。このほか登録免許税・印紙税が課され、仲介手数料等の諸費用も加わります。

最初の分岐はここで生じます。法人が事業として取得した場合、これらの費用は原価または販売費・一般管理費として損金の額に算入される余地があります(法人税法第22条第3項)。他方、個人が自己の居住用として取得した場合、家事上の経費及びこれに関連する経費は必要経費に算入されません(所得税法第45条第1項第1号)。

保有 — 固定費と、賃料への課税

保有期間中は毎年、固定資産税と都市計画税が課されます。固定資産税の標準税率は100分の1.4(地方税法第350条第1項)、都市計画税の税率は100分の0.3を超えることができません(同法第702条の4)。この負担は名義にかかわらず生じます。

分岐が大きいのは、賃料収入への課税です。

論点個人保有法人保有
収益への課税所得税の超過累進税率(課税所得4,000万円超の部分は45%/所得税法第89条第1項)に個人住民税所得割(道府県民税4%・地方税法第35条第1項+市町村民税6%・同法第314条の3第1項)が加わる法人税の基本税率23.2%(法人税法第66条第1項)。資本金1億円以下等の法人は年800万円以下の所得につき19%(同条第2項)、租税特別措置法第42条の3の2により15%に軽減(所得10億円超の事業年度は17%。適用期限のある時限措置)
費用の算入家事関連費は必要経費不算入(所得税法第45条第1項第1号)販売費・一般管理費等は損金算入(法人税法第22条第3項第2号)。ただし役員給与は定期同額給与等に該当しないものは損金不算入(同法第34条第1項)
所得がない年追加負担なし法人住民税の均等割が発生(資本金等1,000万円以下で道府県民税年2万円・地方税法第52条第1項、従業者50人以下で市町村民税年5万円・同法第312条第1項)

補足すべき点が二つあります。第一に、法人の負担は上記の法定税率で完結せず、地方法人税・法人事業税・法人住民税を含めた実際の負担はこれより高くなります。第二に、「法人にすれば自分への給与で利益を自由に圧縮できる」という理解は正確ではありません。役員給与のうち定期同額給与等に該当しないものの額は、損金の額に算入されないと定められています(法人税法第34条第1項)。

そして法人には、所得がない年でも均等割という固定費が残ります。賃料収入の規模が小さいほど、この固定費の相対的な重みは増します。分岐点を一律の金額で示すことはできませんが、「固定費を上回るだけの税負担の差が見込めるか」が判断の枠組みになります。

譲渡 — 「5年」は売った日ではなく、売った年の1月1日で判定する

個人が土地等・建物等を譲渡した場合の所得税は、所有期間により二つに分かれます。

  • 譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもの:課税長期譲渡所得金額の100分の15(租税特別措置法第31条第1項)
  • 譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下であるもの:課税短期譲渡所得金額の100分の30(同法第32条第1項)

ここは最も誤解の多い箇所です。判定基準日は譲渡日ではなく、譲渡した年の1月1日です。所有期間は取得の日の翌日から引き続き所有していた期間として計算されます(同法第31条第2項)。したがって取得から満5年が経過していても、その年の1月1日時点で5年を超えていなければ短期として扱われます。実質的には、暦の上で6年目に入るまで長期の税率は適用されません。この判定日の違いが、税率を倍にします。

これらに加えて、基準所得税額に対し100分の2.1の復興特別所得税が課され(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第13条)、さらに個人住民税が課されます。

法人の場合、譲渡益は各事業年度の所得に合算され、保有期間による税率の区分はありません。短期での売却を想定する場合と長期保有を想定する場合とで、有利・不利が逆転しうるということです。

承継 — 評価の対象そのものが変わる

相続税の税率は超過累進で、法定相続分に応ずる取得金額が6億円を超える部分に100分の55が適用されます(相続税法第16条)。ただし課税価格の合計額からは、3,000万円と600万円に相続人の数を乗じた金額との合計額が基礎控除として控除されます(同法第15条第1項)。実際の税額は相続人の数・遺産の構成・各種特例の適用により大きく変動するため、物件価格から税額を逆算することはできません。

構造上の相違点は、承継の対象です。個人名義であれば不動産そのものが、法人名義であればその法人の株式が相続財産となります。相続又は遺贈により取得した財産の価額は、取得の時における時価によります(同法第22条)。非上場株式の評価方法は国税庁の財産評価基本通達に定められており、不動産を直接評価する場合とは評価のプロセスが異なります。両者にどの程度の差が生じるかは法人の資産構成・規模区分等により個別に判定されるものであり、一般的な圧縮率を示すことはできません。

信託は課税を消す装置ではない

「国外の信託に入れれば日本の課税は及ばないのではないか」— これも繰り返しいただくご質問です。所得課税については、信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る)は信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされ、信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなされます(所得税法第13条第1項)。集団投資信託・退職年金等信託・法人課税信託についてはこの限りではありません(同項ただし書)。信託という器を用いること自体が、受益者への所得の帰属を変えるわけではないということです。

相続税・贈与税についても、適正な対価を負担せずに信託の受益者等となる者があるときは、その者は信託に関する権利を委託者から贈与(委託者の死亡に基因して効力が生じた場合には遺贈)により取得したものとみなされます(相続税法第9条の2第1項)。信託の設定は課税事象の外にあるのではなく、課税事象として定義されています。

そのうえで、相続税の納税義務の範囲は、財産を取得した者が取得時に国内に住所を有するか、日本国籍を有するか、相続開始前10年以内に国内に住所を有していたことがあるか等により区分されます(同法第1条の3第1項)。国外の器を用いた場合の課税関係は、信託の類型と、委託者・受益者それぞれの属性の組合せによって決まります。「国外にあるから課税されない」という一般命題は成り立ちません。

構造は、買う前にしか選べない

私たちの経験では、ご相談の多くは購入後に持ち込まれます。しかし名義の選択は取得の時点で確定し、後から変更しようとすれば、その移転自体が新たな課税事象になります。購入の前に整理しておくべきことは、次の四点です。

  • 誰の名義で取得するのか — 保有中と譲渡時の課税の枠組みが決まります
  • 賃料収入の規模はどの程度か — 法人の固定費を上回る差が見込めるかの材料になります
  • 何年保有する計画か — 譲渡年の1月1日における所有期間が税率を分けます
  • 次世代にどう引き継ぐのか — 承継の対象が不動産か株式かで評価のプロセスが変わります

物件の良し悪しは市況が決めますが、保有の構造は設計できます。設計できるものを先に決めることが、私たちの考える順序です。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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