SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス
不動産課税は三段階に分かれる — 「5年」をどこから数えるか
2026-08-26
「東京に一件、国外に一件、いずれも賃貸に出しています。手取りではどちらが有利ですか」— 複数の法域に不動産を持つ方から、私たちはこの問いを繰り返し受けます。
この問いに、単一の税率で答えることはできません。不動産にかかる税は、取得・保有・譲渡という三つの段階でそれぞれ別の税目として課され、どの段階に負担の重心が置かれるかは法域によって異なるためです。ここでは日本側の構造を三段階に分けて整理します。
第一段階:取得時
不動産取得税の標準税率は、地方税法第73条の15により100分の4と定められています。課税標準は同法第73条の13により「不動産を取得した時における不動産の価格」であり、実際に支払った売買代金そのものではありません。
住宅及び土地の取得については期限を区切った軽減措置が置かれてきましたが、これらはいずれも期限付きの特例です。適用の有無と水準は取得時期によって変わるため、取得の時点で現に有効な措置を確認する必要があります。
このほか、所有権移転登記に伴う登録免許税、契約書に係る印紙税が生じます。
第二段階:保有時
保有段階では、毎年、固定資産税が課され、物件の所在によってはこれに都市計画税が加わります。
固定資産税の標準税率は地方税法第350条により100分の1.4です。
都市計画税は、これと異なり、全ての不動産に当然に課される税ではありません。同法第702条第1項は、市町村が、都市計画区域のうち市街化区域(区域区分に関する都市計画が定められていない場合には、当該都市計画区域の全部又は一部で条例で定める区域)内に所在する土地及び家屋に対し、都市計画税を課することが「できる」と定めています。課税するか否かは市町村の判断に委ねられ、対象となる区域も限られます。税率については同法第702条の4が「百分の〇・三を超えることができない」と定めていますが、これは標準税率ではなく制限税率、すなわち上限を画す規定です。
課税標準は同法第349条第1項により課税台帳に登録された価格とされています。この「価格」は同法第341条第5号において「適正な時価」と定義されており、実際に支払った売買代金そのものではありません。
この段階で重要なのは、負担が毎年発生するという点です。保有期間が長くなるほど累積し、譲渡益を実現する前にキャッシュアウトが先行します。
第三段階:譲渡時 — そして「5年」の起算
個人が土地建物等を譲渡した場合の所得は、他の所得と区分して課税されます。
- 租税特別措置法第31条第1項:その年1月1日において所有期間が5年を超えるもの → 課税長期譲渡所得金額の100分の15
- 同法第32条第1項:その年1月1日において所有期間が5年以下のもの → 課税短期譲渡所得金額の100分の30
所得税の税率だけで倍の開きがあります。これに復興特別所得税(基準所得税額の100分の2.1。東日本大震災復興財源確保法第13条)が上乗せされ、さらに地方税分が別途課されます。
| 段階 | 主な税目 | 根拠条文と水準 | 課税標準 |
|---|---|---|---|
| 取得 | 不動産取得税 | 地方税法第73条の15(標準税率100分の4) | 取得時の不動産の価格(同法第73条の13) |
| 保有(毎年) | 固定資産税 | 地方税法第350条(標準税率100分の1.4) | 課税台帳登録価格(同法第349条) |
| 保有(毎年・課税区域内のみ) | 都市計画税 | 地方税法第702条第1項(市街化区域等に課することが「できる」)/同法第702条の4(100分の0.3を超えられない=上限) | 同上 |
| 譲渡(5年超) | 長期譲渡所得 | 租税特別措置法第31条第1項(100分の15) | 課税長期譲渡所得金額 |
| 譲渡(5年以下) | 短期譲渡所得 | 租税特別措置法第32条第1項(100分の30) | 課税短期譲渡所得金額 |
ここに、実務で最も多い誤解があります。この「5年」は、取得日から数えた丸5年ではありません。条文は「その年1月1日において」と判定時点を定めており、基準となるのは譲渡した年の1月1日です。所有期間の起算日は、同法第31条第2項により取得の日の翌日とされています。
たとえば2020年3月1日に取得した場合、起算は翌日の3月2日です。2025年中に譲渡すると、判定時点である2025年1月1日の所有期間は約4年10か月であり、取得から丸5年を経過した後の売却であっても短期に区分されます。長期の区分に移るのは2026年1月1日以降の譲渡であり、実際には取得から5年10か月近くを待つことになります。数か月の売却時期の差が、そのまま税率の差として現れる構造です。
特例の射程は「用途」で決まる
租税特別措置法第35条第1項は、居住用財産を譲渡した場合に譲渡所得から3,000万円を控除する特例を定めています。
どのような場合が「居住用財産を譲渡した場合」に当たるかは、同条第2項が号を分けて定めています。第1号は「その居住の用に供している家屋」及びその敷地等の譲渡です。第2号は、災害により滅失した居住用家屋の敷地等のほか、居住の用に供されなくなった居住用家屋等の譲渡を、居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にした場合を対象としています。現に住んでいることまでが求められているわけではなく、退去後にも一定の期間が置かれている点は見落とされやすいところです。さらに同条第3項は、相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋等の譲渡について、期間その他の要件の下で第1項の適用対象とみなす規定を別に置いています。
もっとも、いずれも出発点は「居住用家屋」、すなわち居住の用に供されていた家屋です。取得当初から賃貸に供してきた投資用物件は、第2項第1号にも第2号にも当たりません。第3項についても、同項各号は相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないことを要件としており、賃貸を続けてきた物件はこれを満たしません。
なお同条第4項は、第3項の場合において当該家屋等を取得した相続人の数が3人以上であるときは、控除額を2,000万円に読み替える旨を定めています。
同じ物件、同じ譲渡益であっても、用途という事実関係が特例の可否を分けます。
構造として捉える
- どの段階に重心があるか — 保有課税が毎年発生する構造では、長期保有と短期回転とで有利不利が入れ替わります
- 1月1日を基準とした所有期間 — 譲渡の意思決定は、日単位ではなく暦年単位で組み立てる必要があります
- 用途の履歴と譲渡の時期 — 一度も居住の用に供していない物件は対象外ですが、かつて居住の用に供していた家屋であれば、退去後に賃貸に供していても、退去した日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡であれば対象となり得ます(第35条第2項第2号)。用途と時期は切り離して判断できません
法域が異なれば、三段階のどこに負担が置かれるかも異なります。取得時の税率だけ、あるいは譲渡時の税率だけを取り出して比較しても、保有期間を通じた実際の負担は見えてきません。保有期間・用途・譲渡予定時期を一枚の構造図に置くことが出発点です。なお、期限付きの特例措置は適用時期によって内容が変わるため、譲渡の時期を含む計画は年度内に確認しておく必要があります。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。