SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継
海外にある不動産は、日本の相続税の課税対象になるのか
2026-09-29
「母国に不動産が残っています。私が亡くなったとき、日本にいる子どもがそれを相続する。海外にある不動産まで、日本が相続税を取るのでしょうか」— 国境をまたぐ家族から、私たちはこの質問を繰り返し受けてきました。
答えは、財産がどこにあるかではなく、取得する人がどの区分に入るかで決まります。
相続税は、まず人を見る
相続税法は、課税範囲を財産の所在からではなく納税義務者の区分から組み立てています。同法第1条の3第1項は納税義務者を五つの号に分け、第2条がそれぞれの課税範囲を定めています。
| 取得者の区分 | 根拠条文 | 課税範囲 |
|---|---|---|
| 財産取得時に日本国内に住所を有する者(一時居住者でない個人、および一時居住者であっても被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人でない場合) | 第1条の3第1項第1号 → 第2条第1項 | 取得した財産の全部(国外財産を含む) |
| 財産取得時に日本国内に住所を有しない者のうち、日本国籍を有し相続開始前10年以内に国内に住所を有していたことがある者ほか、同号所定の者 | 第1条の3第1項第2号 → 第2条第1項 | 取得した財産の全部 |
| 上記以外で、日本国内にある財産を取得した者 | 第1条の3第1項第3号・第4号 → 第2条第2項 | 国内にある財産のみ |
一般に前二者を「無制限納税義務者」、後者を「制限納税義務者」と呼びますが、条文上の呼称ではありません。判断の分かれ目は住所の有無、国籍、そして一時居住者に当たるかどうかです。
なお一時居住者とは、同法第1条の3第3項第1号により、相続開始の時において出入国管理及び難民認定法別表第一の上欄の在留資格を有する者であって、相続開始前15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以下であるものをいいます。所得税法の居住者区分とは年数も基準も異なる、別の物差しである点にご注意ください。
財産の所在は、種類ごとに別の基準で決まる
第1条の3第1項第3号・第4号に当たる場合には、次に「その財産は国内にあるのか」という判定に進みます。ここを定めるのが同法第10条です。重要なのは、単一の基準ではなく、財産の種類ごとに別の基準が置かれていることです。
| 財産の種類 | 根拠条文 | 所在の判定基準 |
|---|---|---|
| 動産・不動産・不動産の上に存する権利 | 第10条第1項第1号 | その動産または不動産の所在(船舶・航空機は登録機関の所在) |
| 貸付金債権 | 第10条第1項第7号 | 債務者の住所または本店・主たる事務所の所在 |
| 社債・株式・法人に対する出資 | 第10条第1項第8号 | 発行法人等の本店または主たる事務所の所在 |
| 上記各号以外の財産 | 第10条第3項 | 被相続人または贈与者の住所の所在 |
| 判定の時点 | 第10条第4項 | 取得した時の現況による |
不動産の判定基準は物理的な所在そのものです。他の財産類型のように、債務者や発行法人といった「人」を経由して所在が決まるのではありません。したがって国外にある不動産は、その物件を処分しない限り、国外財産のままです。
ここから導かれる帰結は単純です。取得者が第1条の3第1項第1号または第2号に当たる場合、国外にある不動産は課税対象に入ります。 国外財産に当たること自体は、課税範囲の外に出る理由になりません。
二重課税と、外国税額控除が届く範囲
不動産の所在地国が、その不動産に対して独自に課税する場合があります。日本側が全世界課税を行い、所在地国も課税すれば、同一の財産に二つの国が課税することになります。
この調整として、相続税法第20条の2が在外財産に対する相続税額の控除を置いています。施行地外にある財産を取得した場合において、当該財産についてその地の法令により相続税に相当する税が課せられたとき、算出税額からその税額に相当する金額を控除する、という構造です。
条文の要件は二重の意味で限定的です。
第一に、控除の対象は「その地の法令により相続税に相当する税が課せられた」場合に限られます。所在地国の税制がその財産に相続税相当の課税を行わない場合、日本側で控除すべき外国税額は生じません。その結果、国外にある不動産が日本の課税価格にそのまま算入されることになります。相続税に相当する税を課さない法域は実際に存在し、控除は自動的に働く仕組みではありません。
第二に、控除額には上限があります。同条ただし書は、算出税額に、当該財産の価額が課税価格計算の基礎に算入された取得財産の価額のうちに占める割合を乗じた金額を超える部分については控除しない、と定めています。所在地国で課された税額が大きくても、日本側で控除できるのはこの限度までです。
構造の問題として捉える
私たちの経験では、この論点が表面化するのは、資産を移そうとしたときではなく、取得者の区分と財産の所在という二つの判定が、それぞれ別に進むことを知らなかったときです。確認すべきは次の三点です。
- 相続人はそれぞれどの区分に当たるか — 第1条の3第1項の各号で課税範囲が根本から変わります
- 保有資産は、第10条のどの類型に入るか — 所在の判定基準が類型ごとに異なります
- 所在地国は、その財産に相続税に相当する税を課すか — 第20条の2の控除が働くかどうかが決まります
相続人の区分・資産の類型と所在・所在地国の課税の有無を一枚の構造図に起こすことが、国際的な資産を持つご家族の承継設計の出発点です。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。