SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス
海外持株会社を通じた日本不動産投資 — 「入口の配当」と「出口の株式譲渡」は別の条文で決まる
2026-09-30
「海外の持株会社を通じて日本の不動産を保有しています。配当を本国に戻すときの源泉徴収税は、租税条約でゼロにできると聞きました」— 私たちはこの相談を繰り返し受けてきました。配当についてのこの理解は、要件を満たす限りにおいて正しいことが多いものです。しかし、この構造で本当に重心を置くべきなのは、入口ではなく出口です。
国内法のデフォルトを先に確認する
外国法人が内国法人から受ける剰余金の配当は、所得税法第161条第1項第9号イにより国内源泉所得に該当し、同法第178条により外国法人に対して課する所得税の課税標準に含まれます。支払者は同法第212条第1項により源泉徴収義務を負い、その税率は同法第213条第1項第1号により20%です。さらに、東日本大震災復興財源確保法第28条第1項・第2項により、源泉徴収義務者は復興特別所得税(2.1%)を併せて徴収しなければなりません。結果として、実際に差し引かれる率は20.42%となります。
なお、租税特別措置法第9条の3は上場株式等の配当等について20%を15%に読み替える特例を置いていますが、非公開の日本子会社からの配当はこれに該当しません。出発点は20.42%です。
条約が税率を置き換える仕組み
租税条約実施特例法第3条の2第1項は、限度税率を定める条約の規定の適用がある配当等について、所得税法第213条第1項等に規定する税率に代えて当該限度税率によるものと定めています。同条第2項は、所得税の免除を定める条約の規定の適用がある場合には、所得税法第212条第1項等の規定の適用そのものがないものと定めています。
つまり「ゼロになる」とは、税率がゼロに下がるのではなく、源泉徴収の根拠規定の適用が外れる、という構造です。ただし、具体的な限度税率、持株比率要件、保有期間要件、および特典制限・主要目的テストの内容は、各条約の規定によって異なります。租税条約の本文は日本の法令データベースの収録対象ではないため、本稿では条約の条番号および数値を記載しません。実務では条約原文と議定書、適用があるBEPS防止措置実施条約の規定に直接当たる必要があります。
条約の恩典は自動的には適用されない
見落とされやすいのは手続きです。租税条約実施特例法の施行に関する省令第2条は、相手国居住者等が条約に基づく軽減または免除を受けようとする場合、源泉徴収義務者ごとに所定の事項を記載した届出書を、その支払を受ける日の前日までに、当該源泉徴収義務者を経由して、その納税地の所轄税務署長に提出しなければならないと定めています。
条約の実体要件を満たしているのに20.42%が差し引かれた、という事態の多くは、この期限管理の失念から生じます。
出口 — 株式を売っても、日本の課税権は残り得る
「日本の不動産ではなく、その不動産を持つ日本法人の株式を売る」— 法人税法第138条第1項第3号は、国内にある資産の譲渡により生ずる所得として政令で定めるものを国内源泉所得とし、法人税法施行令第178条第1項第5号は、そこに「法人(不動産関連法人に限る。)の株式の譲渡による所得」を掲げています。
### 不動産関連法人の判定(同条第8項)
不動産関連法人とは、その株式の譲渡の日から起算して365日前の日から当該譲渡の直前の時までの間のいずれかの時において、有する資産の価額の総額のうちに、国内にある土地等(および一定の下位法人の株式)の価額の合計額の占める割合が50%以上である法人をいいます。
判定が「いずれかの時」である点が重要です。譲渡の直前に不動産の比率を下げても、遡る365日の間に一度でも50%以上であった法人は、なお不動産関連法人に該当します。
### どの譲渡が対象になるか(同条第9項・第10項)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 判定時点 | 譲渡事業年度開始の日の前日 |
| 保有割合(上場株式等) | 特殊関係株主等が発行済株式等の総数または総額の5%超を保有 |
| 保有割合(上場株式等以外) | 特殊関係株主等が発行済株式等の総数または総額の2%超を保有 |
| 譲渡者 | その譲渡をした者が当該特殊関係株主等であること |
特殊関係株主等とは、当該法人の一の株主等、その者と一定の特殊の関係等のある者、および一定の組合財産につき株主等に該当することとなる者をいいます(同条第10項)。海外持株会社が日本子会社を100%保有する典型的な構造は、当然に「2%超」を満たします。
源泉徴収がないことは、義務がないことではない
所得税法第212条第1項が外国法人について源泉徴収の対象として掲げるのは、同法第161条第1項第4号から第11号まで及び第13号から第16号までの国内源泉所得です。株式の譲渡による所得(同項第3号)はここに含まれません。つまり、株式譲渡の対価からは誰も税を差し引きません。
代わりに生じるのは申告義務です。法人税法第141条第2号により、恒久的施設を有しない外国法人の課税標準は第138条第1項第2号から第6号までの国内源泉所得に係る所得の金額とされ、同法第144条の6第2項により、当該外国法人は各事業年度終了の日の翌日から2月以内に確定申告書を提出しなければなりません(当該国内源泉所得を有しない場合、または租税条約の規定等により法人税を課さないこととされる場合を除きます)。
対照的に、法人が日本の土地建物等を直接譲渡した場合、その対価は所得税法第161条第1項第5号の国内源泉所得となり、同法第213条第1項第2号により10%(復興特別所得税を含め10.21%)が買主側で源泉徴収されます。直接売却では税が自動的に差し引かれ、株式売却では差し引かれない。この非対称が、株式譲渡における無申告を生みやすくしています。
条約が出口まで守るとは限らない
現代の租税条約の多くは、資産の価値の大部分を源泉地国の不動産が占める法人の株式の譲渡について、源泉地国の課税権を留保する規定を置いています。しかし、どの条約にどの要件で置かれているかは条約ごとに異なり、条約本文の確認を要します。設計上の出発点は、「条約がなければ国内法どおりに課税される」、そして「条約があっても出口の課税権は留保されている可能性が高い」という二つの想定です。
入口・保有・出口を一枚の図面に
- 入口 — 取得の主体、資金の経路、持株比率の設定
- 保有 — 配当の源泉徴収税率と、届出書の提出期限の管理
- 出口 — 不動産関連法人該当性(365日ルール)、保有割合、申告義務の所在
配当の20.42%を軽減する設計は、出口で株式譲渡益課税を受ける可能性と、同じ図面の上で検討されるべきものです。入口だけを最適化した構造は、出口で設計の不在が表面化します。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。