SEISEI INSIGHTS — ファミリーウェルス
事業会社・持株会社・資産保有法人 — 三層構造について条文が定めていること
2026-09-10
「利益も、株式も、不動産も、すべて自分の名義に集まっています。このままでよいのでしょうか」— 事業が一定の規模に達したオーナーの方から、私たちはこの問いを繰り返し伺ってきました。相談の入口は納税額であることが多いのですが、実際に検討の対象となるのは、所得と財産がどの層に帰属しているかという構造そのものです。事業会社の上に持株会社を置き、資産保有のための法人を並置する、いわゆる三層構造について、条文が実際に何を定めているかを整理します。階層を増やすこと自体が何かを軽くするわけではなく、層と層のあいだで条文がどのような要件を課しているかが構造の実質を決めます。
持株会社の層:法人間配当の扱い
事業会社の株式を個人が直接保有する形から持株会社を介する形に変えたとき、まず変わるのは配当の経路です。法人税法第23条第1項は、内国法人が受ける配当等の額について、株式等の区分に応じて益金の額に算入しない旨を定めています。
| 株式等の区分 | 益金不算入とされる金額 |
|---|---|
| 完全子法人株式等 | 配当等の額の全額 |
| 関連法人株式等 | 配当等の額から、これに係る利子の額に相当するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額 |
| 上記のいずれにも該当しない株式等 | 配当等の額の100分の50に相当する金額 |
| 非支配目的株式等 | 配当等の額の100分の20に相当する金額 |
見落とされやすいのは最上段の要件です。同条第5項は、完全子法人株式等を「配当等の額の計算期間を通じて内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人の株式等として政令で定めるもの」と定義しています。完全支配関係とは、法人税法第2条第12号の7の6により、一の者が発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係として政令で定める関係をいいます。
つまり、全部保有という状態だけでは足りず、それが配当等の額の計算期間を通じて継続していることが求められます。株式を持株会社へ移した年度の途中で行われる配当は、この区分に入らない可能性があります。構造を組んだ初年度に想定と異なる結果が生じるのは、多くの場合この時点の要件によるものです。
資産保有の層:一般社団法人と同族理事
不動産や金融資産を個人名義から切り離す器として一般社団法人が用いられることがあります。この法人には持分の定めがなく、法人名義の財産はそれ自体としては理事個人の相続財産を構成しません。
もっとも相続税法第66条の2第1項は、一般社団法人等の理事である者(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含みます)が死亡した場合において、その法人が特定一般社団法人等に該当するときは、法人の純資産額を同族理事の数に1を加えた数で除した金額を当該被相続人から遺贈により取得したものとみなし、法人を個人とみなして相続税を課すと定めています。特定一般社団法人等の要件は同条第2項第3号にあり、イは相続開始の直前における同族理事の数が理事の総数の2分の1を超えること、ロは相続開始前5年以内に同族理事の割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であることで、いずれかを満たせば該当します。
注意を要するのは同族理事の範囲です。同条第2項第2号は被相続人・その配偶者・三親等内の親族のほか「政令で定める特殊の関係のある者」を含むとし、相続税法施行令第34条第3項は、事実上婚姻関係と同様の事情にある者、被相続人の使用人、被相続人から受ける財産によって生計を維持している者、被相続人が会社役員となっている他の法人の会社役員又は使用人などを列挙しています。親族でないという一点をもって制度上の「外部理事」となるわけではありません。
さらに、器を用意することと、そこへ財産を移すことは別個に条文の適用を受けます。相続税法第66条第4項は、持分の定めのない法人に対する財産の贈与又は遺贈により、贈与又は遺贈をした者の親族その他特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合について定めています。
層と層のあいだ:給与と旅費
法人と個人のあいだで所得の置き場所を動かす手段が役員給与ですが、損金算入には制約があります。法人税法第34条第1項は、役員給与のうち定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも該当しないものの額を損金に算入しないとし、同条第2項は、これらに該当する場合であっても不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は損金に算入しないとしています。
退職に伴う給与には別の計算構造があります。所得税法第30条第2項は、退職所得の金額を収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額とし(短期退職手当等に係る例外があります)、同条第3項は退職所得控除額を、勤続年数20年以下は1年あたり40万円、20年超は800万円に20年超部分1年あたり70万円を加算した金額と定めています。
旅費については、所得税法第9条第1項第4号が、職務の遂行のための旅行等に必要な支出に充てるため支給される金品のうち「その旅行について通常必要であると認められるもの」を非課税としています。非課税の範囲は、規程を設けたという形式ではなく、この「通常必要」という要件によって画されます。
なお、国外に資産がある場合、構造の内側を整えることと開示義務は別です。内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第5条は、居住者(非永住者を除きます)が、その年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する場合に、国外財産調書の提出を義務づけています。
構造として捉える
三層構造は税負担を減らすための装置ではなく、事業・資産・承継を別々の器に分けて管理するための枠組みです。設計にあたって確認すべき点は、おおむね次の三つに整理されます。
- 持株会社と事業会社のあいだの保有関係が、配当等の額の計算期間を通じて維持されているか
- 資産保有法人の理事構成が、政令の列挙を含めた同族理事の範囲に照らしてどの位置にあるか
- 法人と個人のあいだで動かす給与・退職給与・旅費が、損金算入と非課税それぞれの要件を満たしているか
理事構成、保有関係、国外財産の残高はいずれも年ごとに変動し、そのつど要件との関係が変わります。設計と同じだけ、その後の継続的な確認が実質を左右します。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。