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所得の「構成」が負担率を決める — 分離課税と基準所得金額の課税の特例

2026-09-23

「これだけの所得があるのだから、税率はもう上限に張り付いているはずだ」— 事業を売却し、その後は保有株式の譲渡益と配当が収入の中心になった方から、私たちはこの前提を繰り返し聞いてきました。日本の所得税を「所得が増えるほど税率が上がる一本の階段」として捉えるなら、自然な理解です。

しかし実際の負担率を大きく左右しているのは、所得の大きさだけではありません。その所得がどの課税方式に属しているか — つまり所得の「構成」です。

二つの税率表が並走している

日本の所得税には、性質の異なる二つの税率体系が並存しています。

一つは総合課税です。所得税法第89条第1項は課税総所得金額を七段階に区分し、4,000万円を超える部分に最高税率45%を定めています。これに住民税の所得割(地方税法第35条第1項・第314条の3第1項の標準税率で合計10%)が加わり、合わせて55%です。

もう一つが申告分離課税です。租税特別措置法第37条の11第1項は上場株式等の譲渡所得等について、同法第8条の4第1項は上場株式等の配当所得等について、いずれも「所得税法第22条及び第89条……の規定にかかわらず、他の所得と区分し」て百分の15の所得税を課すと定めています。条文が名指しで第89条の適用を外している点が重要です。これらの所得は、そもそも累進税率表の上を動きません。住民税も申告分離課税として同様に区分され、いずれも合計100分の5です(地方税法附則第35条の2の2・第33条の2。道府県民税100分の2+市町村民税100分の3)。

課税方式対象所得所得税住民税
総合課税給与・事業所得等5〜45%の累進(所得税法第89条第1項)10%(地方税法第35条第1項・第314条の3第1項)
申告分離課税上場株式等の譲渡所得等15%(措置法第37条の11第1項)5%(地方税法附則第35条の2の2)
申告分離課税上場株式等の配当所得等15%(措置法第8条の4第1項)5%(地方税法附則第33条の2)

※このほか、所得税額の2.1%が復興特別所得税として課されます(復興財源確保法第13条)。

構成比が、そのまま負担率になる

二つの表が並走している以上、合計の負担率は加重平均として決まります。所得の全てが総合課税に属するなら上限に近づき、全てが分離課税に属するなら20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)に近づき、中間にいる方の負担率はその構成比が決めます。

帰結はこうです。総合課税の部分では所得が大きいほど税率は上がりますが、分離課税の部分は額が増えても税率が変わりません。そのため合計の負担率を大きく左右するのは総合課税所得の割合であり、分離課税所得の割合が高いほど、合計の負担率は20.315%の側へ寄っていきます(ただし基準所得金額が一定額を超えると、次に述べる特例が働きます)。一般に「1億円の壁」と呼ばれてきたのは、この構造のことです。

現行法に置かれた調整措置

この構造に対する調整は、すでに現行法に置かれています。租税特別措置法第41条の19(特定の基準所得金額の課税の特例)です。

条文の構造は三層になっています。

第1項は対象と計算を定めます。その年分の基準所得金額が3億3,000万円を超える個人を「特例対象者」とし、その超える部分の金額の百分の22.5に相当する金額から、その年分の基準所得税額を控除した金額に相当する所得税を課す、と規定しています。定率の最低税率ではなく、通常の計算による税額が「超過部分の22.5%」に届かない場合に差額を追加で課す仕組みです。

この第1項は、令和8年3月31日公布の「所得税法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第12号)により改正され、令和9年1月1日の施行後は閾値が「一億六千五百万円」、率が「百分の三十」となります。同法附則第47条により、改正後の第1項は令和9年分以後の所得税に適用され、令和8年分以前は従前の例(3億3,000万円・22.5%)によります。

第2項は基準所得金額を定義します。総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の合計に加え、上場株式等に係る配当所得等の金額(第8条の4第1項)、土地の譲渡等に係る事業所得等の金額、長期譲渡所得の金額、短期譲渡所得の金額、一般株式等に係る譲渡所得等の金額(第37条の10第1項)、上場株式等に係る譲渡所得等の金額(第37条の11第1項)、非居住者の株式等譲渡に係る国内源泉所得の金額、先物取引に係る雑所得等の金額 — 計九号が合算されます。つまり、分離課税として累進税率表の外に置かれていた金融所得が、この判定の場面では合算し直されます。なお各号の金額は単純な所得の合計ではなく、たとえば第1号・第2号は第8条の5第1項の適用がないものとして計算し、第4号・第5号は特別控除後の金額とするなど、号ごとに条文所定の調整を加えて計算します。

第3項は基準所得税額を定義し、非永住者以外の居住者・非永住者・非居住者の三区分それぞれについて、第1項の適用がないものとして計算した所得税の額を指すとしています。

三つの居住者区分すべてに定義がある

第3項が三つの居住者区分を並べて定義を置いている点は、国際的に資産と居所を持つ方にとって押さえておくべき構造です。条文上、この特例の基準所得税額は非永住者以外の居住者・非永住者・非居住者のそれぞれについて定義されており、国籍によって区分されているわけではありません。どの区分に当たるか、その区分でどの所得が課税範囲に入り、特例の判定にどう影響するかは個別の事実関係によって異なるため、個別の判断は提携税理士による確認が必要です。

確認すべき三点

この論点で最初に必要なのは試算ではなく、現状の把握です。

  • 自分の所得は、総合課税と分離課税にどのような比率で分かれているか — 負担率はここで決まります
  • 第41条の19第2項各号のうち、どの号に自分の所得が入るか — 基準所得金額の見え方が変わります
  • 実現の時点をどの年分に置くか — 特例の判定は「その年分」の基準所得金額を単位としています

加えて、前述のとおり令和9年分からは閾値が1億6,500万円、率が100分の30に改められます。どの年分にどの基準が適用されるかは、構造を考えるうえでの前提です。

所得の額ではなく所得の構成を一枚の図に起こすこと。それが、この論点の出発点です。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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