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ファミリーオフィスの「器」をどう選ぶか — 一般社団法人と合同会社
2026-08-28
「ファミリーオフィスをつくりたいのですが、どの法人形態で設立すればよいのでしょうか」— 資産管理の体制についてご相談をいただく際、この問いをよく受けます。日本には「ファミリーオフィス」という法人格は存在しません。実際に設立されるのは既存の法人形態であり、そのどれを選ぶかによって、出資の扱い・利益の分配・承継時の帰結が変わります。
前提として、ファミリーオフィスには一つの家族に専属するかたち(シングルファミリーオフィス)と、複数の家族が一つの体制を共有するかたち(マルチファミリーオフィス)があります。ここで扱うのは前者、すなわち一族が自ら法人を設けて資産管理の中核に置く場合です。
一般社団法人 — 出資という概念を持たない器
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第10条第1項は、設立時社員となろうとする者が共同して定款を作成し、その全員が署名又は記名押印しなければならないと定めています。
注目すべきは、第11条第1項が定める定款の絶対的記載事項です。そこに掲げられているのは、目的、名称、主たる事務所の所在地、設立時社員の氏名又は名称及び住所、社員の資格の得喪に関する規定、公告方法、事業年度の七項目であり、社員の出資に関する事項は含まれていません。後述する持分会社の定款が出資の価額を絶対的記載事項とするのとは、条文の構造が対照的です。「一般社団法人には資本金がない」と説明されるのは、この記載事項の不存在に対応しています。
もっとも、財産を拠出できないわけではありません。同法第131条第1項は、基金を引き受ける者の募集をすることができる旨を定款で定めることができるとし、基金を「この款の規定により一般社団法人に拠出された金銭その他の財産であって、当該一般社団法人が拠出者に対して…返還義務…を負うもの」と定義しています。基金は出資ではなく、同款の規定に基づく返還義務を伴う資金です。もっとも、基金は財産を受け入れる方法の一類型にとどまり、法人への財産移転が基金に限られるわけではありません。無償で財産を与える意思表示と相手方の受諾があれば、贈与として効力を生じます(民法第549条)。
そしてもう一つ、第11条第2項が重要です。「社員に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めは、その効力を有しない」— 一般社団法人は、社員に利益を分配する仕組みを定款で作ることができません。持分がないという特徴は、承継の場面で意味を持つ一方、分配を目的とする器としては使えないことと表裏です。
合同会社 — 出資と分配を切り離せる器
合同会社は会社法上の持分会社の一類型です。会社法第576条第1項第6号は、持分会社の定款の絶対的記載事項として「社員の出資の目的(有限責任社員にあっては、金銭等に限る。)及びその価額又は評価の標準」を掲げ、同条第4項は、合同会社の場合には社員の全部を有限責任社員とする旨を記載しなければならないと定めています。さらに第578条は、合同会社の社員になろうとする者は、定款作成後、設立登記の時までに出資に係る金銭の全額を払い込み、又は金銭以外の財産の全部を給付しなければならないと規定します。合同会社には出資が必要であり、その払込みは設立登記までに完了していなければなりません。
分配についての規律が、一般社団法人との最大の違いです。第621条第1項は社員が持分会社に対して利益の配当を請求できるとし、同条第2項は「利益の配当を請求する方法その他の利益の配当に関する事項を定款で定めることができる」とします。そして第622条第1項は、「損益分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定める」と規定しています。出資の価額に応じた分配は、定款に定めがない場合の補充規定です。したがって、定款に定めを置けば、出資割合と損益分配割合を一致させないことができます。この点が、合同会社が資産管理の器として選ばれる理由の一つです。
| 論点 | 一般社団法人 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 出資 | 定款の絶対的記載事項に出資の定めがない(一般社団法人法第11条第1項)。財産の受入れは基金に限られない。基金は返還義務を伴う一類型(同法第131条第1項)、無償移転は贈与として成立しうる(民法第549条) | 出資の目的及び価額が定款の絶対的記載事項(会社法第576条第1項第6号)。設立登記時までに全額払込み・全部給付が必要(同法第578条) |
| 社員の責任 | 出資に基づく持分の概念がない | 全社員が有限責任社員(会社法第576条第4項) |
| 利益の分配 | 社員に剰余金・残余財産の分配を受ける権利を与える定款の定めは無効(一般社団法人法第11条第2項) | 社員は利益の配当を請求できる(会社法第621条第1項)。損益分配割合は定款で別段の定めが可能(同法第622条第1項) |
承継目的で一般社団法人を用いる場合の分岐点
一般社団法人に持分がないことから、承継の器として関心を持たれることがあります。ここで確認が必要なのが相続税法第66条の2です。
同条第1項は、一般社団法人等の理事である者(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含みます)が死亡した場合において、その法人が「特定一般社団法人等」に該当するときは、相続開始時の純資産額を同族理事の数に一を加えた数で除して計算した金額を、その死亡した者から遺贈により取得したものとみなし、当該法人を個人とみなして相続税を課すと定めています。
「特定一般社団法人等」は、同条第2項第3号が「一般社団法人等であつて次に掲げる要件のいずれかを満たすもの」と定義しています。要件は二段構えです。第一に、同項第1号の「一般社団法人等」に当たること。同号は一般社団法人又は一般財団法人をいうものとし、相続開始の時において公益社団法人又は公益財団法人、法人税法第2条第9号の二に規定する非営利型法人その他の政令で定める法人に該当するものを除くと定めています。第二に、同項第3号イ又はロを満たすこと。イは被相続人の相続開始の直前における同族理事の数が理事の総数の二分の一を超えること、ロは相続開始前5年以内に同族理事の割合が二分の一を超える期間の合計が3年以上であることです。同族理事とは、被相続人又はその配偶者、三親等内の親族その他政令で定める特殊の関係のある者である理事をいいます(同項第2号)。
除外される法人類型に該当しない一般社団法人等であれば、一族の構成員が理事の過半を占める体制は、この要件に触れうる位置にあります。逆に、家族理事が過半を占めることだけで直ちに「特定一般社団法人等」になるわけではありません。第1号の法人類型の判定が先に来ます。持分がないことが、そのまま相続税の課税対象外を意味するわけではない、という点は器の選択の前提として押さえておく必要があります。
規模と、相手方の立場
どの器を選ぶかの前に、そもそも独立した体制を設ける段階にあるかという問いがあります。ファミリーオフィスには、専門人材・外部専門家への報酬・事務所・コンプライアンス対応といった固定的な運営費用が継続的に発生します。資産規模に対してこの費用が相対的に大きい段階では、持株会社と外部専門家の組合せで機能を満たすほうが実質的です。判断は、資産の総額だけでなく、法人・不動産・金融資産の構成と、管理すべき法域の数によって変わります。
もう一点、外部の助言先を評価する際に確認すべきは、その相手方が何に対して対価を受け取る立場にあるかです。商品の提供によって収益を得る立場と、助言や管理そのものに対して報酬を受け取る立場では、提案の前提が異なります。どちらが優れているという話ではなく、利害の所在を把握したうえで役割を使い分けるべきだ、という構造の問題です。
ファミリーオフィスは税負担を軽減する装置ではありません。法人・不動産・金融資産・承継計画を一つの体系として管理するための枠組みであり、その枠組みをどの法人形態に載せるかは、上記の条文上の差異から出発して設計されるべきものです。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。