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ファミリーオフィスの五つの機能 — 「器をつくる」ことと「機能させる」ことは別の作業です

2026-09-08

「合同会社を設立して、ファミリーオフィスをつくりました」と伺ったあと、「どの機能を担わせていますか」とお尋ねすると、そこで会話が止まることがあります。法人の設立をもって完了したと理解されているためです。しかし法人は器であり、器そのものが何かを行うわけではありません。担わせる機能は、おおむね次の五つに整理できます。

機能主に関係する制度先に確認すべきこと
税務構造所得税法第89条/地方税法第35条・第314条の3/法人税法第34条役員給与が損金算入の形式要件を満たしているか
資産の保全信託法第23条執行が及びうる例外に該当しないか
承継の設計信託法第91条受益者連続型の期間制約を織り込んでいるか
投資の管理法人税法第57条/所得税法第70条欠損金の繰越が限度額の範囲に収まるか
コンプライアンス国外送金等調書法第5条・第10条対象財産と提出期限を把握できているか

一 税務構造 — 税率差ではなく、要件の充足

個人に対する所得税は、課税総所得金額のうち4,000万円を超える部分について45%とされています(所得税法第89条)。これに個人住民税の所得割の標準税率(道府県民税4%・市町村民税6%、指定都市に住所を有する場合は2%・8%)が加わります(地方税法第35条・第314条の3)。法人には別の税率構造が適用されるため、所得をどの主体に帰属させるかは構造上の論点になります。

ただし、法人化それ自体が結論を出すわけではありません。法人が役員に支給する給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当しなければ損金の額に算入されず(法人税法第34条第1項)、該当する場合でも不相当に高額な部分は損金不算入とされます(同条第2項)。形式要件を満たしているかどうかが、構造が意図どおりに働くかを左右します。

二 資産の保全 — 分離の範囲を正確に把握する

信託財産に属する財産に対しては、信託財産責任負担債務に係る債権に基づく場合を除き、強制執行・仮差押え・仮処分・担保権の実行・競売及び国税滞納処分をすることができません(信託法第23条第1項)。もっとも、委託者が債権者を害することを知って信託をしたときは、信託前に生じた債権を有する者も執行することができ(同条第2項)、この例外は信託がされた時から2年を経過したときは適用されません(同条第4項)。

法人名義とする場合も、分離は絶対ではありません。法人が保有する財産と個人が保有する財産は法律上別個のものですが、その法人の持分・株式は依然として個人の財産です。

三 承継の設計 — 期間の制約がある

受益者の死亡により当該受益者の受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定めのある信託は、信託がされた時から30年を経過した時以後に現に存する受益者がその定めにより受益権を取得した場合、当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有します(信託法第91条)。世代を超えた指定は可能ですが、無期限ではありません。設定時から数えた時間軸を、あらかじめ設計図に書き込んでおく必要があります。

四 投資の管理 — 損失の取扱いが主体によって異なる

法人は、各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額を損金の額に算入できますが、損金算入限度額が定められており、原則として当該事業年度の所得の金額の50%相当額が上限です(法人税法第57条第1項)。個人については、青色申告書を提出している年に生じた純損失に限り、前年以前3年内に生じたものが控除の対象とされています(所得税法第70条第1項)。期間も要件も異なるため、どの主体で投資を行うかは事前に検討すべき論点です。

五 コンプライアンス — 期限が構造の一部

その年の12月31日においてその価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する居住者(非永住者を除く)は、その年の翌年の6月30日までに、国外財産調書を所轄税務署長に提出しなければなりません(国外送金等調書法第5条第1項)。正当な理由がなくて提出期限までに提出しなかったとき、又は偽りの記載をして提出したときは、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が定められています(同法第10条)。加えて、共通報告基準(CRS)に基づく金融口座情報の自動的交換や、米国のFATCAに基づく報告により、国外の口座情報は本人の申告を待たずに当局へ到達します。

器ではなく、機能から設計する

法人を設立すること自体は難しくありません。難しいのは、五つの機能それぞれについて要件を満たし、期限を管理し、想定した状態を維持し続けることです。ファミリーオフィスの検討は、「どの器をつくるか」ではなく「どの機能を、どの制度に依拠して担わせるか」から始めるほうが、後の手戻りが少なくなります。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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