SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継

資産の調査は誰が、いつできるのか — 生前と相続開始後の境界

2026-09-07

「本人の体調が思わしくないのですが、資産の全体像を家族に話してくれません。今のうちに、こちらで調べておくことはできませんか」— ご家族からのご相談として、私たちはこの問いを繰り返し受けてきました。

先に結論を申し上げます。本人が存命である限り、本人の同意なく第三者がその資産情報を取り寄せることはできません。 配偶者であっても、子であっても同じです。

生前 — 資産情報は本人に帰属する

生前における資産の所在と残高は、本人の個人情報です。金融機関・証券会社・保険会社は、本人以外からの照会に応じない取扱いを原則としています。親族という立場を示しても、この扱いは変わりません。

本人の識別情報や認証情報を無断で用いて内容を確認する行為は、そもそも設計の手法ではなく、別種の法的問題を生じさせます。私たちは、この線を越える助言は行いません。

設計に必要なのは「残高」ではなく「構造」

もっとも、実務上の焦燥の多くは、必要な情報の精度を過大に見積もっていることから生じています。資産承継の設計に必要なのは、一円単位の残高ではありません。

  • 不動産が何件、どの国・地域にあるか
  • 金融資産の口座が国内・国外のいずれに置かれているか
  • 生命保険契約の有無
  • 国外財産が含まれるか

この程度の概況が把握できていれば、課税範囲の切り分けと構造上の論点整理は着手できます。設計が見ているのは資金の流れではなく、財産の置かれ方だからです。そして概況の把握は、本人の協力を得る、という正攻法によって最も確実に進みます。

相続開始後 — 相続人には正式な経路がある

民法第896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」と定めています。相続開始により、相続人は被相続人の財産関係を包括的に承継する地位に立ちます。

この地位を前提として、実務上は次の経路が用意されています。

手段生前相続開始後位置づけ
金融機関の残高証明・取引履歴本人の同意なくしては不可相続人として請求可能各金融機関の相続手続
名寄帳による不動産の一覧把握不可相続人として市区町村に請求自治体の固定資産税実務
生命保険契約の有無の照会不可生命保険協会の照会制度を利用業界団体の制度
ヒアリングによる概況把握本人の協力があれば可能—設計の出発点

留意点として、これらの手続は民法や税法の条文で一律に定められたものではなく、各金融機関の相続手続、自治体の実務、業界団体の制度として運用されています。手続の詳細や必要書類は機関ごとに異なります。

調査は「権利」であると同時に「義務の裏返し」でもある

相続税法第1条の3は、相続又は遺贈により財産を取得した者を相続税の納税義務者として定めています(住所・国籍等に応じた区分が置かれています)。納税義務を負う以上、相続人は被相続人の財産を把握しなければ、そもそも義務を履行できません。

つまり相続開始後の資産調査は、詮索ではなく、申告義務の前提として制度が予定している行為です。明らかになるべきものは、いずれ明らかになります。問題は順序です。

私たちの立場

境界線を説明することは、抜け道を示すことではありません。むしろ逆で、法的に成り立ち、かつ実際に機能する経路を明示することが、ご家族の焦燥に対する最も実務的な回答だと考えています。

  • 生前は、本人の協力を得た概況把握までが可能な範囲です
  • 相続開始後は、相続人の地位に基づく正式な経路が存在します
  • 設計に必要なのは残高の精度ではなく、財産の置かれ方の構造です

本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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