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養子縁組と法定相続人の数 — 効果と、同じ制度が置いた制限

2026-08-31

「孫を養子にすれば相続税の負担が下がると聞きました」— ご家族の相続についてご相談をいただくとき、私たちはこの話を繰り返し伺います。相続人の数が増えることによる効果は、相続税法が明文で定めています。同時に、その効果を制限する規定が、同じ法律の中に複数置かれています。そして税法とは別に、民法上の身分関係が動きます。

相続人の数が乗数になっている箇所

相続税法第15条第1項は、課税価格の合計額から「三千万円と六百万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額」を控除すると定めています。

同法第12条第1項第6号は、相続人が取得した保険金について、非課税限度額を「五百万円に当該被相続人の第十五条第二項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額」としています。同項第7号は、退職手当金等について同じ構造の限度額を定めています。

いずれも「相続人の数」を乗数とする点で共通しています。したがって、この「相続人の数」に算入される者が一人増えれば、これら複数の箇所に同時に影響します。逆にいえば、民法上は相続人であっても、次に述べる第15条第2項の算入上限を超える養子は、この数に算入されず、これらの計算には影響しません。

制限その一 — 算入できる養子の数

相続税法第15条第2項は、この「相続人の数」を民法第五編第二章の規定による相続人の数としたうえで、養子について次の上限を置いています。

被相続人の状況相続人の数に算入できる養子の数根拠
実子がある場合1人第15条第2項第1号
実子がなく、養子の数が1人1人第15条第2項第1号
実子がなく、養子の数が2人以上2人第15条第2項第2号

同条第3項は、特別養子縁組(民法第817条の2第1項)による養子となった者、被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者その他政令で定める者、及び代襲により相続人となったその者の直系卑属を「実子とみなす」としており、これらはこの上限の外に置かれます。

見落とされやすいのは、第12条第1項第6号が非課税限度額の乗数として「第十五条第二項に規定する相続人の数」を引用している点です。養子の算入制限は、基礎控除だけでなく保険金の非課税限度額にもそのまま及びます。

制限その二 — 直系卑属を養子とした場合の加算

相続税法第18条第1項は、財産を取得した者が被相続人の「一親等の血族…及び配偶者以外の者」である場合、算出した相続税額にその100分の20に相当する金額を加算すると定めています。

そして第2項は「前項の一親等の血族には、同項の被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となつている場合を含まないものとする」としたうえで、「当該被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失つたため、代襲して相続人となつている場合は、この限りでない」と定めています。孫を養子とした場合、その者が相続又は遺贈により財産を取得したときは、代襲相続人となっている場合を除き、この加算の対象となります。第18条第1項は財産を取得した者について定める規定であり、養子縁組をしたこと自体が加算を生じさせるわけではありません。

制限その三 — 不当に減少させると認められる場合

相続税法第63条は、第15条第2項各号に定める養子の数を相続人の数に算入することが「相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合」において、税務署長は更正又は決定に際し、その養子の数を算入しないで課税価格及び相続税額を計算することができると定めています。算入の可否は、形式上の要件を満たせば当然に確定するものではありません。

税法の外で動くもの — 身分関係

民法第809条により、養子は縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します。第727条は、養子と養親及びその血族との間に、縁組の日から血族間におけるのと同一の親族関係を生ずると定めています。

その結果として、養子は第887条第1項にいう「子」として相続人となり、第1042条第1項の「兄弟姉妹以外の相続人」に当たるため、遺留分権利者に加わります。もっとも、その者が縁組がなくても第887条第2項により代襲して相続人となる場合には、遺留分権利者の数それ自体が増えるわけではありません。いずれにせよ、財産の配分をどう定めるかという設計は、この一点によって制約を受けます。孫を養子とした場合には、その孫は第887条第1項により子の世代と同順位の相続人となり、子の世代を経ずに承継させる設計が可能になります。もっとも、どの財産が誰に帰属するかを決めるのは縁組ではなく、遺言(第902条・第964条)又は遺産分割です。縁組それ自体が承継先を確定させるわけではありません。

手続の面では、第802条が「人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき」及び「当事者が縁組の届出をしないとき」に縁組は無効であると定めています。ただし同条は、その届出が第799条において準用する第739条第2項に定める方式(当事者双方及び成年の証人二人以上による署名等)を欠くだけであるときは、そのために縁組の効力は妨げられないとしています。無効となるのは届出そのものがされていない場合であり、方式上の不備にとどまる場合とは区別されます。第799条が準用する第739条第1項により、縁組は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって効力を生じます。当事者間で話がまとまった段階では、まだ効力は生じていません。

なお第798条は、未成年者を養子とするには家庭裁判所の許可を得なければならないとしつつ、「自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない」と定めています。孫は自己の直系卑属に当たるため、この許可は要しません。ただし届出が必要である点は変わりません。

構造の問題として

養子縁組は、相続人の数を通じて税額の計算に影響し、同時に身分関係と配分の設計に影響します。確認すべきは次の三点です。

  • 実子がいるか、養子が何人か — 第15条第2項の算入上限が決まり、その上限が第12条第1項第6号の非課税限度額にも及びます
  • 養子となる者が被相続人の直系卑属か、その者が相続又は遺贈により財産を取得するか、代襲相続人となっているか — 第18条第1項の加算は財産を取得した者について生じ、第2項ただし書により代襲相続人となっている場合は対象から外れます
  • 縁組の届出が完了しているか、遺留分権利者の構成が変わることを配分設計に織り込んでいるか

税額の計算と身分関係の設計は別々に検討できるものではなく、一枚の構造図の上で同時に見る必要があります。


本稿は一般的な制度情報の提供を目的とするものであり、個別の法律相談・税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。養子縁組の手続そのものは、戸籍法及び民法に基づく身分行為です。

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