SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス

国外資産をめぐる三つの調書制度 — 誰が、何を、いつ提出しているのか

2026-07-27

「海外の資産の申告」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは国外財産調書一つだけです。しかし内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「国外送金等調書法」)は、提出する主体もタイミングも異なる複数の調書制度を並べて定めており、それらは相互に突き合わせることが可能な形で設計されています。重要なのは、個々の書式ではなく、この重なり方です。

一つ目 — 本人が提出する「国外財産調書」

その年の12月31日において、価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する居住者(非永住者を除く)は、氏名・住所・国外財産の種類・数量・価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年6月30日までに所轄税務署長に提出しなければなりません(国外送金等調書法第5条第1項)。

判定の基準時は12月31日、提出は翌年6月30日まで。年末時点の資産構成によってその年の義務の有無が確定するため、把握と整理は年度内に計画しておく必要があります。

二つ目 — 金融機関が提出する「国外送金等調書」

金融機関は、顧客がその営業所等を通じて国外送金等に係る為替取引を行ったとき、送金者の氏名・住所・送金額・送金原因その他の事項を記載した国外送金等調書を、その為替取引を行った日の属する月の翌月末日までに所轄税務署長に提出しなければなりません(国外送金等調書法第4条第1項)。対象から除かれるのは政令で定める金額以下の送金であり、その金額は100万円とされています(同法施行令第8条第1項)。

こちらは本人の申告ではなく金融機関側の義務であり、100万円を超える国外送金は、送金の都度、税務署に情報が届いていることになります。

三つ目 — 資産規模に応じて加わる「財産債務調書」

確定申告書を提出すべき者等のうち、その年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において価額の合計額が3億円以上の財産、又は価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産(有価証券等)を有する場合には、財産債務調書を翌年6月30日までに提出しなければなりません(国外送金等調書法第6条の2第1項)。

国外財産調書が「国外にある財産」を対象とするのに対し、こちらは所得と資産の規模で発動し、国内外を通じた財産と債務の全体像を求める制度です。

制度提出する主体発動する場面提出期限
国外財産調書本人12月31日時点で国外財産5,000万円超翌年6月30日
国外送金等調書金融機関100万円を超える国外送金等の都度為替取引の日の属する月の翌月末日
財産債務調書本人所得2,000万円超かつ財産3億円以上等翌年6月30日

これらに加えて、共通報告基準(CRS)に基づき報告金融機関等が国外の居住者に係る口座情報を毎年税務署長に提供する仕組みもあります(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律第10条の6第1項)。本人の申告、金融機関の報告、国境を越えた交換 — 複数の経路が同じ資産を指しています。

提出の有無は、本税とは別に効いてくる

国外財産調書には、加算税の調整という独特の効果があります。国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税について修正申告等があり、過少申告加算税又は無申告加算税が課される場合、提出期限内に提出された国外財産調書にその国外財産の記載があるときは、加算税の額は5%相当額を控除した金額とされます(同法第6条第1項)。逆に、提出期限内の提出がない場合、又は提出はあってもその国外財産の記載がない場合には、5%相当額を加算した金額とされます(同条第3項)。調書を出しているか否かが、本税とは別の負担として表れる制度設計です。

さらに、国外財産調書に偽りの記載をして提出したとき、また正当な理由がなくて提出期限までに提出しなかったときは、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金と定められています(同法第10条。ただし不提出については、情状により刑を免除することができるとされています)。

「調書の提出」は「納税」ではない

実務でしばしば見られる誤解が、この二つの混同です。調書の提出は財産の所在と価額を明らかにする行為であり、それ自体が納税を意味するものではありません。もっとも、提出を怠った場合の不利益は加算税の加重として確実に生じます。開示は納税ではありませんが、開示を怠ることは税負担を重くします。

構造の問題として捉える

私たちの経験では、問題の多くは意図的な秘匿ではなく、自分がどの制度の対象になっているかを把握しないまま年を越してしまうことから生じています。確認すべきは次の三点です。

  • 12月31日時点の国外財産の合計額はいくらか — 国外財産調書の義務の有無が決まります
  • 所得と財産の規模は財産債務調書の水準に達しているか — 対象は国内外の財産と債務の全体です
  • 過去の国外送金の記録と、申告している資産・所得は整合しているか — 照合の起点になります

資産の所在と評価額、送金の履歴、各年の提出状況。この三つを一枚の構造図に揃え、年度内に対応を計画することが、国際的に資産をお持ちの方の出発点です。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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