SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継
在日華人が亡くなったとき、相続は中国法か日本法か — 準拠法という最初の分岐点
2026-06-15
在日のご家族から「遺産をどう分ければよいのか」とご相談を受けるとき、私たちが最初に確認するのは分割の中身ではありません。「どの国の法律で分けるのか」です。同じ家族構成でも、適用される法律が中国法か日本法かで、相続人の範囲も取り分も大きく変わります。この出発点を取り違えると、その後の議論はすべて土台を失います。
相続の準拠法は「国籍」で決まる
日本には、国際的な私法関係にどの国の法律を適用するかを定めた「法の適用に関する通則法」があります。その第36条は「相続は、被相続人の本国法による」と定めています。住んでいる場所ではなく、亡くなった方の国籍がある国の法律で相続を処理する、という考え方です。
したがって、中国籍の方が日本で亡くなった場合、誰がどれだけ相続するかは原則として中国の法律に従って判断されます。日本に長く住み、生活の本拠が日本にあっても、この点は変わりません。
中国法と日本法で「取り分」はこう変わる
中国の法定相続では、配偶者・子・父母が同じ順位の相続人となり、原則として均等に分割されます。一方、日本の民法第900条第1号は、子と配偶者が相続人であるときの相続分を各2分の1と定め、子が複数いる場合は子の取り分を均等に分けます(同条第4号)。
| 論点 | 中国の法定相続(一般的な枠組み) | 日本民法(第900条) |
|---|---|---|
| 第一順位の相続人 | 配偶者・子・父母が同順位 | 配偶者と子(父母は子がいれば相続人とならない) |
| 配偶者の取り分 | 原則として他の相続人と均等 | 子と相続する場合は2分の1 |
| 父母の扱い | 子がいても相続人となる | 子がいる場合は相続人とならない |
同じ遺産でも、配偶者と義父母が均等に分けるのか、配偶者が半分を確保するのか — どちらの法律が適用されるかで結論は根本的に異なります。
「分け方」と「課税」は別の問題
ここで見落とされやすいのが、準拠法は税を決めないという点です。準拠法が決めるのは「誰がいくら相続できるか」であり、相続税の課否は日本の相続税法が別途定めます。相続税法第1条の3は相続税の納税義務者の範囲を規定しており、財産の所在や住所等の要件を満たせば、分割の準拠法が何であれ日本の相続税の対象となります。相続分の話と課税の話は、二つの異なる問題として整理する必要があります。
遺言は「有効」と「使える」が別物
遺言についても準拠法の整理が要ります。遺言の方式(書き方の形式)は「遺言の方式の準拠法に関する法律」第2条により、行為地法・本国法・住所地法・常居所地法・不動産所在地法のいずれかに適合すれば、方式として有効とされます。日本で書いた遺言も、中国で書いた遺言も、いずれかの形式要件を満たせば方式上は有効になり得ます。なお、遺言の成立及び効力そのものは通則法第37条により遺言者の本国法によります(方式はこの条文の対象外です)。
ただし「方式として有効」と「実務で使える」は別です。日本では遺言の執行に家庭裁判所の検認が必要となり、不動産登記などの場面では所定の手続を経ていない遺言が受け付けられないことがあります。
構造として捉える
私たちの経験では、問題の多くは「分け方を間違えた」ことではなく「どの法律で分けるのかを意識していなかった」ことから生じます。整理すべきは、被相続人の国籍(準拠法)、相続人の範囲、資産の所在、そして課税の四点です。これらを一枚の構造図に起こすことが、国際相続の出発点になります。
本稿は一般的な税制・法制度情報の提供を目的とするものであり、個別の税務・法律相談に該当するものではありません。具体的な申告・手続については、提携税理士・専門家をご紹介の上、有資格者が対応いたします。