SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス

二重課税の調整は自動では働かない — 控除限度額と更正の請求

2026-08-27

母国で資産を売却し、現地で所得税を納付した。ところが日本でも同じ譲渡益が課税対象になると告げられる。納税証明書を手に「すでに納めています」とおっしゃる方に、私たちは繰り返しお会いしてきました。納めたことは事実です。ただし日本の制度において、その事実は自動的に税額へ反映されるものではありません。

調整は「納めた分がそのまま戻る」制度ではない

居住者がその年において外国所得税を納付することとなる場合、その年分の所得税の額から一定額を控除する仕組みが置かれています(所得税法第95条第1項)。ここで最初に押さえるべきは、控除されるのが納付額の全額ではなく、条文が「控除限度額」と呼ぶ枠を上限とする、という点です。

同項は控除限度額を、第89条から第93条までの規定により計算したその年分の所得税の額のうち、その年に生じた国外所得金額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額、と定義しています。つまり枠の大きさは、国外でいくら納めたかではなく、日本側の税額と所得構成によって決まります。

控除限度額はどう計算されるか

その「政令で定めるところ」は、次のとおり定められています(所得税法施行令第222条第1項)。

> 控除限度額 = その年分の所得税の額 × (その年分の調整国外所得金額 ÷ その年分の所得総額)

ここでいう所得総額は、純損失・雑損失の繰越控除を適用しないで計算した場合の総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の合計額を指します(同条第2項)。調整国外所得金額は同じく繰越控除前の国外所得金額であり、それが所得総額に相当する金額を超える場合には、所得総額に相当する金額が上限とされます(同条第3項)。

構造を見るための単純な例で示します。その年分の所得税の額を 500、所得総額に占める調整国外所得金額の割合を 20% とすると、控除限度額は 100 です。国外で 150 を納付していたとしても、その年の税額から控除できるのは 100 までにとどまります。

このずれは、手続の不備から生じるものではありません。二国の税率水準と課税範囲が異なる以上、構造的に生じるものです。

ずれは三年間持ち越せる

第95条は、そのずれを一年で切り捨てる建て付けにはなっていません。

控除対象外国所得税の額が、その年の控除限度額と地方税控除限度額との合計額を超える場合、前三年以内の各年の控除限度額のうちその年に繰り越される部分(繰越控除限度額)があるときは、それを限度として超過部分を控除できます(同条第2項)。逆に、その年の控除対象外国所得税の額が控除限度額に満たない場合、前三年以内の各年に納付することとなった控除対象外国所得税額のうち繰り越される部分を、当該限度額から控除する仕組みが置かれています(同条第3項)。

枠が余る年も、枠が足りない年も、いずれも起こり得ます。単年だけを見て「使えなかった」と判断すると、この繰越の設計を視野から落とすことになります。

過去の年分をどう扱うか

すでに申告を終えた年分について調整が反映されていない場合、制度上の入口は「更正の請求」です。納税申告書を提出した者は、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年以内に限り、税務署長に対して更正をすべき旨の請求をすることができます(国税通則法第23条第1項)。同項は、一定の場合のうち法人税に係るものについて十年としています。

条文の主語に注意が必要です。「納税申告書を提出した者」と書かれています。申告そのものを行っていない年分は、この手続の射程には入らず、まったく別の整理を要します。過去分を遡って検討する際、最初に確認すべきはこの一点です。

租税条約という、もう一つの層

二国間の課税権の配分については、外国税額控除とは別に租税条約の枠組みがあります。ただし、その適用範囲・対象となる所得の種類・手続・限度の定め方は条約ごとに異なり、一般論として語れるものではありません。ご自身に関係する条約について、条文そのものを確認する必要があります。

相手国側の制度についても同様です。国外所得に対する税額控除の有無、その計算方法、申告手続と期限は、当地の税制に従って別途確認すべき事項であり、日本側の制度から類推できるものではありません。

論点の並び

  • 国外で納付した税が、所得税法上の「外国所得税」に該当するか
  • その年分の控除限度額はいくらか(所得税法施行令第222条第1項の算式)
  • 限度超過・限度未使用について、前三年以内の繰越が使えるか(所得税法第95条第2項・第3項)
  • 過去年分について、そもそも申告を行っているか。行っている場合、更正の請求の期間内か
  • 相手国側の制度と手続

二重課税の調整は、権利として存在していれば自動的に働くというものではなく、算式と期間と手続に沿って初めて税額に現れます。順序を一枚の図に落とすことが出発点です。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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