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日本企業の買収でつまずく5つの論点 — 価格より先に確認すべきこと

2026-07-20

魅力的に見える案件について、私たちがまず確認するのは価格ではありません。年間利益に対して割安に見える提示価格であっても、その数字の背後にある構造を確かめないまま送金に進めば、支払った資金が実質的に失われることがあります。海外から日本企業を取得する際、多くの場合につまずくのは、次の五つの論点です。価格の交渉は、これらを確認した後に行うべきものです。

五つの論点

論点何を確認するか
① 売上・利益の実態売却直前に業績を良く見せるための調整が入っていないか。財務デューデリジェンスを経ない数字は、化粧された報告書である可能性があります
② 簿外債務帳簿に表れない債務 — 保証債務、係争中の訴訟、未払いの退職金、未納の税など。株式を取得すれば、これらも引き継ぐことになります
③ 許認可の承継取得の形態によって、許認可が自動的に引き継がれない場合があります
④ キーマン・従業員の引継ぎ中小企業の中核的な価値が、経営者個人や少数の熟練従業員に依存していないか
⑤ アドバイザーの利益相反買い手・売り手の双方から報酬を受け取る構造になっていないか

①②:数字の裏側を読む

売却を控えた企業では、売上を高く、利益を良く見せる調整が入ることがあります。表面の報告書だけを見て判断すれば、実態とかけ離れた評価をつかまされかねません。財務デューデリジェンスは、この差を埋めるための手続です。

さらに注意すべきは 簿外債務 です。保証債務、未払退職金、係争、未納税など、帳簿に表れない負債は、株式譲渡によって取得側に引き継がれます。契約上の手当て(表明保証など)を通じて、判明した論点と未知のリスクをどう分担するかを設計することが重要です。

③:許認可は「自動では付いてこない」

取得の形態は結論を左右します。株式譲渡では、原則として法人格に紐づく許認可は維持されます。一方、事業(資産)を個別に譲り受ける形態では、建設業・人材派遣・飲食業など、個別の業法に基づく許認可を改めて取得し直す必要があるものが少なくありません。許認可が失われれば、事業そのものが動かせなくなります。どの形態を採るかは、対象事業に必要な許認可の承継可否から逆算して決める べきです。

④:価値は「人」に宿ることがある

日本の中小企業では、中核的な価値が経営者個人や数名の熟練従業員に依存していることが珍しくありません。クロージング後に経営者が退き、熟練従業員が離れ、顧客がそれに従って離反すれば、取得したのは器だけになりかねません。従業員の引継ぎ、競業避止、キーマンの留任に関する条件を、交渉の段階で明確に取り決めておく必要があります。

⑤:アドバイザーは誰の側にいるか

買い手・売り手の双方から報酬を受け取る構造(両手)では、アドバイザーの立場が中立とは限りません。成約そのものが目的化すれば、取得側が割高に買っても、リスクを見落としても、その利益は必ずしも守られません。だからこそ「中小M&Aガイドライン」は、双方から報酬を受ける場合の開示を求めています。報酬構造を明らかにしないアドバイザーに、判断を委ねてよいかは慎重に考えるべきです。

価格は最後の論点

日本企業の買収において、価格は最初の論点ではありません。財務の実態、簿外債務、許認可の承継、人材の留任、そしてアドバイザーの立場 — この五つを構造として確認したうえで、初めて価格の妥当性を論じることができます。


本稿は一般的な制度・実務情報の提供を目的とするものであり、個別の法務・税務相談に該当するものではありません。具体的な案件の検討にあたっては、提携する有資格の専門家をご紹介の上、対応いたします。

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