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ファミリーオフィスの器をどう選ぶか — 法人形態と理事構成が決めること

2026-09-09

「一般社団法人を設立してファミリーオフィスの受け皿にした。理事は自分と配偶者と子である」— 私たちはこの構成について繰り返し伺ってきました。その前提には多くの場合、「一般社団法人には持分がないのだから、相続税の問題は生じない」という理解があります。前半は正しく、後半は正しくありません。相続税法は、持分とは別の経路を用意しています。

持分がないことと、課税されないことは別の話である

一般社団法人には出資持分の概念がなく、持分そのものが相続財産を構成することはありません。しかし相続税法第66条の2第1項は、法人そのものに相続税を課す規定を置いています。

一般社団法人等の理事である者が死亡した場合において、その法人が「特定一般社団法人等」に該当するときは、相続開始の時における法人の純資産額を、その時における同族理事の数に一を加えた数で除して計算した金額を、その死亡した者から遺贈により取得したものとみなし、法人を個人とみなして相続税を課す — これが条文の定める構造です。

読み落とされやすい点が三つあります。第一に、課税対象は純資産額の全額ではなく、同族理事の数に一を加えた数で除した金額です。第二に、条文は「理事である者」に括弧書きを付し、理事でなくなった日から五年を経過していない者を含むと定めています。退任は、それだけでは対象から外れる事由になりません。第三に、除数についても括弧書きがあり、被相続人と同時に死亡した者があって、その者が死亡直前において同族理事である者等であり、かつ被相続人と政令で定める特殊の関係があるときは、その死亡した者の数が加算されます。

「特定一般社団法人等」に至る二つの経路

該当性は、次のいずれかを満たすかどうかで判定されます(同条第2項第3号)。

要件条文上の定め
直前要件被相続人の相続開始の直前における同族理事の数が、理事の総数のうちに占める割合が二分の一を超えること
期間要件相続の開始前五年以内において、同族理事の数が理事の総数のうちに占める割合が二分の一を超える期間の合計が三年以上であること

実務上重みを持つのは第二の要件です。相続が視野に入った段階で外部理事を加えても、過去五年間の期間要件によって該当してしまう構造になっています。理事構成は、必要になった時点で整えるものではなく、時間を要件とする制度として扱う必要があります。

ここでいう同族理事とは、被相続人またはその配偶者、三親等内の親族その他の当該被相続人と政令で定める特殊の関係のある者をいいます(同項第2号)。

また、この規定が及ぶ範囲にも限定があります。公益社団法人・公益財団法人、法人税法第2条第9号の2に規定する非営利型法人その他政令で定めるものは、相続開始の時においてこれらに該当する限り、そもそも条文にいう「一般社団法人等」から除かれます(同項第1号)。一般社団法人であれば当然にこの経路に載る、というものではありません。

さらに、資産を法人へ移す局面にも規定があります。相続税法第66条第4項は、持分の定めのない法人に対する財産の贈与または遺贈があった場合において、それにより贈与者等の親族その他特別の関係がある者の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときについて、同条第1項から第3項までの規定(法人を個人とみなして贈与税・相続税を課す規定)を準用すると定めています。

法人形態の選択が変えるもの

形態条文上の特徴相続をめぐる論点の所在
一般社団法人理事は一人以上(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第60条第1項)。理事会設置一般社団法人では三人以上(同法第65条第3項)持分は存在しない。公益法人・非営利型法人等に該当しない限り、相続税法第66条の2により法人段階での課税が生じうる
合同会社社員の全部が有限責任社員(会社法第576条第4項)。損益分配の割合は定款で定めることができ、定めがないときに出資の価額に応じる(同法第622条第1項)社員の死亡は法定退社事由(同法第607条第1項第3号)。相続人その他の一般承継人が持分を承継する旨は、定款で定めることができる(同法第608条第1項)。定款にその定めがあるかどうかで、持分が承継される局面になるのか、退社に伴う持分の払戻しの局面になるのかが変わる
株式会社株式が相続財産を構成する相続により取得した財産の価額は取得の時における時価による(相続税法第22条)。非上場株式について、その時価をどう算定するかの具体的方法は通達に拠るのが実務であり、評価の前提そのものが論点になる

「理事を三人以上に」という説明を見かけますが、条文上、理事三人以上が求められるのは理事会を設置する場合であり、設置しない一般社団法人の法定要件は一人以上です。また第66条の2の要件は理事の人数ではなく同族理事の割合で定められているため、理事を三人にすること自体が要件の充足も回避も意味しません。人数と割合は別の話です。

法人と個人のあいだにある制度

法人を器として用いる以上、法人から個人への支給が制度上どう扱われるかが構造の一部になります。以下は内国法人と居住者を念頭に置いた整理です。ただし適用要件は規定ごとに異なり、支給する法人が内国法人であることを要件としているのは法人税法第34条であって、所得税法側の各規定はそれぞれ固有の要件で定められています。

  • 役員給与 — 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び同条第3項の規定の適用があるものを除く)のうち、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも該当しないものは損金不算入(法人税法第34条第1項)。加えて、不相当に高額な部分として政令で定める金額は損金不算入とされます(同条第2項)。
  • 役員退職給与 — 業績連動給与に該当しない退職給与は第34条第1項の対象から除かれますが、同条第2項の「不相当に高額な部分」の規律は及びます。全額が当然に損金となる制度ではありません。
  • 退職所得 — 収入金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一が退職所得の金額とされます(所得税法第30条第2項)。控除額は勤続年数二十年以下で四十万円に勤続年数を乗じた額、二十年超で八百万円に七十万円と超過年数を乗じた額を加えた額ですが(同条第3項)、こうして計算した金額が八十万円に満たない場合の控除額は八十万円とされます(同条第6項第2号)。さらに、役員等としての政令で定める勤続年数(役員等勤続年数)が五年以下である者が受ける特定役員退職手当等については、二分の一を乗じる取扱いが適用されません(同条第5項および第2項括弧書)。また、役員等以外の者としての政令で定める勤続年数が五年以下である者が受ける短期退職手当等については、収入金額から退職所得控除額を控除した残額のうち三百万円以下の部分にのみ二分の一を乗じる取扱いがされ、三百万円を超える部分にはこれが適用されません(同条第4項および第2項各号)。ここでいう勤続年数は政令の定めによるものであり、法人の設立からの経過年数とは一致しません。役員退職給与を検討する際は、この年数がどう算定されるかを先に確認する必要があります。
  • 旅費 — 非課税とされるのは、給与所得を有する者が勤務する場所を離れて職務を遂行するため旅行をした場合、転任に伴う転居のための旅行をした場合等に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品のうち、その旅行について通常必要であると認められるものです(所得税法第9条第1項第4号)。条文が求めているのは通常必要性であり、社内規程の存在それ自体が非課税を保証するものではありません。
  • 社宅 — 通常の賃貸料の額の計算は、役員に貸与した場合と使用人に貸与した場合とで別に定められており、いずれも通達所定の算式によります(所得税基本通達36-40、36-45)。通達は行政内部文書であり、納税者や裁判所を直接拘束するものではない点も、前提として押さえておく必要があります。

構造として確認すべき三点

  • 理事構成における同族理事の割合が、現時点だけでなく過去五年間どのように推移してきたか
  • 選択した法人形態のもとで、承継が持分の相続として起きるのか、法人段階の課税として起きるのか、あるいは定款の定めによって別の局面になるのか
  • 法人から個人への支給が、条文の定める要件と適用除外のどちら側にあるか

器の選択は、設立時の手続の問題ではなく、五年という時間軸を含んだ構造の問題です。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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