SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継
家族で会社を営むと、相続財産はどう変わるのか — 家族法人という選択の構造とリスク
2026-07-23
「家族で会社を経営しています。私に万一のことがあれば、相続税はどう計算されるのでしょうか」。事業をお持ちの資産家から、私たちはこうした相談を受けます。答えの出発点は、法人の資産と個人の資産は別物である、という一点にあります。
個人所有と法人所有では、相続財産が異なる
3億円の現金を個人で保有していれば、その3億円はそのまま相続財産を構成します。一方、その資産を法人へ移し、複数の家族が株主となっている場合、相続の対象となるのは被相続人が保有する株式の持分だけです。
そして、非上場株式の評価額は、多くの場合、法人が保有する資産の時価そのものとは一致しません。非上場株式は、国税庁の定める評価方法に従い、純資産価額方式・類似業種比準方式又はその併用によって評価されます。純資産の計算においても、たとえば不動産は相続税評価額(路線価等)で評価され、時価を下回ることが一般的です。
以下は、あくまで構造を理解するための単純化した模型です。
| 項目 | 個人で保有 | 家族法人で保有 |
|---|---|---|
| 不動産の時価 | 3億円 | 3億円 |
| 相続財産としての評価 | 相続税評価額(路線価基準) | 被相続人の持分割合 × 純資産価額 |
| 借入金の反映 | — | 法人の負債を控除 |
| 相続税の課税対象 | 不動産の評価額そのもの | 持分に対応する株式評価額 |
※ 実際の評価額は、会社規模・業種・配当等により大きく異なります。本表は方向性を理解するための概念模型です。
ただし、三つの前提を欠けば否認され得る
この構造は、法人が実体を伴って初めて成り立ちます。前提を欠く場合、課税当局は構造を否認し得ます。
- 事業の実態:法人が実際に事業を営んでいること。もっぱら相続税の負担を不当に減少させる結果と認められる行為・計算は、相続税法第六十四条(同族会社等の行為又は計算の否認等)により否認され得ます。法人税についても、法人税法第百三十二条(同族会社等の行為又は計算の否認)に同様の規定があります。
- 家族の実質的な関与:家族が名目上の役員にとどまらず、実際に職務に従事していること。職務の実態を欠く過大な役員報酬は、法人税法第三十四条(役員給与の損金不算入)により損金として認められない場合があります。
- 十分な経営期間:相続の直前に資産を法人へ移すような対応は、否認リスクを高めます。加えて、相続税法第十九条は、相続開始前7年以内(令和6年以降、従来の3年から順次延長)の一定の贈与を相続財産に加算すると定めています。
役員報酬という「生前の分配」
家族法人には、もう一つの構造的な側面があります。家族が役員として実際に職務に従事すれば、その労務の対価として役員報酬を支払うことができます。役員報酬は給与所得として所得税・住民税の対象となり、その最高税率は相続税と同水準ですが、給与所得控除に加え、複数年・複数人へ分散されることで、実効的な負担は一括の相続課税より緩やかになり得ます。
重要なのは、これが「支払われ、費消される」資金だという点です。生前に正当な対価として分配された資金は、相続財産には含まれません。
構造として捉える
家族法人は、相続税を回避するための道具ではありません。家族が共に事業を営み、その果実を生前から正当に分配していく——その結果として、相続の局面で残る財産の姿が変わる、という構造です。確認すべきは次の三点です。
- 法人に事業の実態があるか
- 家族が実際に経営へ関与し、報酬に見合う職務を担っているか
- その体制が、相続の直前ではなく、十分な期間にわたって継続しているか
これらはいずれも、税制の一般的な構造にかかわる論点です。個別の設計・評価・申告については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。