SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス

CRSで交換される情報、交換されない情報 — 金融口座情報の自動的交換はどう組み立てられているか

2026-07-27

「日本で開いた口座のことを、なぜ母国の税務当局が把握できるのか」— 国際的に資産をお持ちの方から、私たちはこの質問を繰り返し受けてきました。その背景には多くの場合、「自分が申告しない限り、他国の当局に情報が渡ることはない」という前提があります。共通報告基準(CRS: Common Reporting Standard)に基づく金融口座情報の自動的交換は、この前提を置き換えるために設計された制度です。ここでは制度の是非ではなく、法律上どのような順序で情報が動くのかを整理します。

起点は「本人の申告」ではなく「金融機関の確認」

日本におけるCRSの実施は、租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(以下「実施特例法」)に定められています。

金融機関との間で特定取引を行う者は、氏名又は名称・住所・居住地国その他所定の事項を記載した届出書を、その特定取引を行う際に、報告金融機関等の営業所等の長に提出しなければなりません。そして金融機関の側は、その届出書に記載された事項を確認する義務を負います(実施特例法第10条の5第1項)。居住地国の判定は、口座保有者の自己申告のみに委ねられているわけではない、という点が制度の要です。

報告は年に一度、金融機関から税務署長へ

報告金融機関等は、その年の12月31日において報告対象契約が締結されている場合、所定の報告事項を翌年4月30日までに、所轄税務署長に提供しなければなりません(実施特例法第10条の6第1項)。報告対象契約とは、特定居住地国が報告対象国である者が締結している契約等をいいます。

重要なのは、この報告が口座保有者の行動とは無関係に、毎年自動的に発生するという点です。各国の税務当局に集約された情報は、租税条約等の定めるところにより相手国の税務当局へ提供されます。日本と中国の間でも2018年から情報交換が実施されており、中国側でも非居住者の金融口座に係る税務情報のデューデリジェンスと報告の制度が導入されているため、往復の経路として機能しています。

何が報告され、何が報告されないのか

実施特例法が定める報告事項は、次のとおりです。

項目CRSにおける取扱い
氏名又は名称報告事項
住所又は本店・主たる事務所の所在地報告事項
特定居住地国報告事項
報告対象契約に係る資産の価額(口座残高等)報告事項
当該資産の運用・保有・譲渡による収入金額(利子・配当等)報告事項
その他総務省令・財務省令で定める事項報告事項
国外に所在する不動産そのもの報告事項ではない
手元現金報告事項ではない

ここで混同が生じやすいのですが、「CRSの報告事項ではない」ことと「日本の税務上、開示が不要である」ことは、まったく別の話です。たとえば国外に所在する不動産はCRSの報告事項ではありませんが、国外財産調書には記載の対象となります(国外送金等調書法第5条)。制度ごとに捕捉の範囲が異なるため、「この資産はCRSに乗らない」という理由だけで開示義務がないと判断することはできません。

暗号資産をめぐる位置づけ

暗号資産は、従来、金融口座情報の交換の枠組みの外にあると理解されてきました。もっとも実施特例法には、報告暗号資産交換業者等が暗号資産等取引に係る報告事項を税務署長に提供する仕組みが設けられており、この領域も情報報告の対象に組み込まれています。「銀行口座ではないから捕捉されない」という前提で資産構成を組み立てることは、もはや適切ではありません。

構造の問題として捉える

CRSは、納税者を摘発するための制度ではありません。各国が「課税されるべき所得が、課税されるべき国で申告されているか」を相互に確認するための仕組みです。私たちの経験では、問題の多くは秘匿の意図からではなく、自分に関する情報がすでに届いているという認識の欠如から生じています。確認すべきは次の三点です。

  • 各金融機関に届け出た居住地国は、現在の生活と事業の実態と一致しているか
  • 日本と母国の双方で、同じ資産・同じ所得について整合的な申告がなされているか
  • 資金の出所を説明できる記録(送金記録・売買契約書・納税証明等)が保管されているか

金融機関への届出内容、両国での申告状況、資金の履歴。この三つを一枚の構造図に揃えることが、国際的に資産をお持ちの方の出発点です。租税条約に基づく二重課税の調整も、双方で適正に申告されていることを前提として初めて機能します。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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