SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継

事業承継の空白と、事業承継税制の特例 — 日本の中小企業をめぐる制度の枠組み

2026-07-16

「日本人は、なぜ会社を外国人に売るのか」— 日本での事業取得や承継を検討される方から、私たちはこの問いを繰り返し受けてきました。答えは「売りたいから」ではなく、多くの場合「承継の担い手が他にいないから」です。これは個々の経営者の事情である以前に、日本の中小企業が置かれた構造的な状況の反映です。

「後継者不在」という構造

中小企業庁が公表している推計によれば、日本の中小企業の相当数が、経営者の高齢化が進む一方で後継者が定まらない状態にあります。経営者が引退期を迎えても引き継ぐ相手がいなければ、事業そのものが黒字であっても廃業に向かう。雇用や技術、取引先との関係を含めて失われるものは小さくありません。こうした背景から、第三者への承継 — M&Aを含む — が政策的にも現実的な選択肢として位置づけられるようになっています。

政府は、事業承継・引継ぎを後押しする支援体制の整備を進めてきました。第三者承継のマッチングや相談の窓口が拡充され、承継に伴う税制上の措置も設けられています。外国籍の担い手による中小企業の承継・取得は、こうした枠組みのなかで排除されるものではありません。

事業承継税制の「特例措置」

承継の場面で中心となる制度が、事業承継税制です。非上場株式等を贈与・相続により取得した後継者について、一定の要件のもとで、その株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予する仕組みが設けられています。

なかでも「特例措置」は、対象となる非上場株式等に係る税の納税猶予を、通常の措置より広い範囲で認めるものとして設計されています。

区分根拠条文位置づけ
贈与税の納税猶予(特例)租税特別措置法第70条の7の5特例経営承継受贈者に係る贈与についての特例措置
相続税の納税猶予(特例)租税特別措置法第70条の7の6特例経営承継相続人等に係る相続・遺贈についての特例措置

注意すべきは、この特例措置には期間の定めがあるという点です。適用の対象となる贈与・相続には期限が設けられており、あわせて計画の提出等の手続的な要件も伴います。したがって、承継を検討する場合には、期限を意識して年度内に計画的に準備を進める必要があります。制度は「いつでも使える」ものではなく、要件と時期を確認したうえで組み立てるべきものです。

構造の問題として捉える

私たちの経験では、承継や取得の検討は「良い会社を探す」ことから始まりがちですが、制度の側から見ると、確認すべき順序は異なります。

  • 対象となる株式等が事業承継税制の要件を満たし得るか — 猶予の可否が変わります
  • 特例措置の適用期限に間に合う計画かどうか — 時期が結果を左右します
  • 承継後の経営体制が要件を継続的に満たせるか — 猶予の維持に関わります

後継者不在という空白は、担い手にとっての機会であると同時に、制度の要件を満たしてはじめて活かせるものです。会社の魅力ではなく、承継の構造から出発することが、日本の中小企業の承継・取得を検討する際の起点になります。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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