労働保険の申請手続き
1. 概要
労働保険(労災保険と雇用保険の総称)は、労働者の業務上の災害や失業等に対して必要な給付を行い、労働者の生活の安定を図ることを目的とした社会保険制度です。事業主は、労働者を一人でも雇用した時点で原則として労働保険に加入し、保険料の納付や各種手続きを行う法的義務があります。適正な手続きは、労働者の権利保護と事業運営の円滑化のために不可欠です。
2. 適用対象・シナリオ
労働保険の手続きが必要となる主な対象とシナリオは以下の通りです。
- 適用事業所の設立時:常時労働者を一人以上雇用する事業主(農林水産の一部の事業を除く)。
- 年度更新時:毎年6月1日から7月10日までの間に、前年度の賃金総額に基づく労働保険料を確定し、申告・納付する手続き。
- 労働者を新規雇用した時:雇用保険の被保険者資格取得届の提出。
- 労働保険料の納付:概算保険料の納付や延納の手続き。
- 労働者に労災が発生した時:労災保険給付の請求手続き。
- 労働者が離職した時:雇用保険の被保険者資格喪失届の提出や、離職票の作成。
3. 核心的な結論
- 労働保険への加入と保険料の納付は、労働者を雇用する事業主の法的義務です。
- 手続きは主に事業主の責任で行い、管轄の労働基準監督署や公共職業安定所(ハローワーク)に提出します。
- 手続きの期限を遵守することは重要であり、延滞や未手続きには追徴金や罰則が科される可能性があります。
- 多くの手続きが電子申請(e-Gov) で可能となり、利便性が向上しています。
4. 手続き・操作手順
ステップ1: 準備
- 管轄機関の確認:事業所の所在地を管轄する労働基準監督署およびハローワークを確認します。
- 必要書類の確認と収集:
- 労働保険関係成立届(様式第1号)
- 労働保険概算保険料申告書(様式第6号)
- 法人登記簿謄本(法人の場合)や事業主の個人情報が確認できる書類
- 雇用する労働者の雇用契約書や賃金台帳など(賃金総額の算定に必要)
- 保険料率の確認:労災保険率と雇用保険率は業種等によって異なります。最新の料率は公式情報源で確認してください。
ステップ2: 申請・提出
- 労働保険の加入手続き(新規成立):
- 「労働保険関係成立届」および「労働保険概算保険料申告書」を作成します。
- 提出先は、主に労働基準監督署です(保険関係の一括事務所が指定されている場合はそちら)。
- 提出は窓口持参、郵送、または電子申請(e-Gov)で行えます。
- 年度更新手続き(毎年6月1日~7月10日):
- 前年度(4月1日~翌年3月31日)の実際に支払った賃金総額を確定させます。
- 「労働保険概算保険料申告書」と「労働保険確定保険料申告書(精算請求書)」を作成し、確定保険料を申告・納付します(概算保険料との過不足を精算)。
- 随時必要な手続き:
- 雇用保険被保険者資格取得届・喪失届:ハローワークへ提出。
- 労災保険給付請求:労働基準監督署へ請求書を提出。
ステップ3: 審査・確認
- 提出された書類は、管轄機関で審査されます。
- 不備や誤りがある場合は、事業主に連絡があり、修正・再提出が必要になります。
- 審査が完了すると、保険料の納付書が送付されたり、電子納付の手続きが完了したりします。
- 給付申請の場合は、審査後に給付決定通知が送られ、給付金が支払われます。
- 事業主は、労働保険料の納付済み証書や給付決定通知書等を大切に保管する必要があります。
5. よくある質問(FAQ)
Q1: パートタイマーやアルバイトを雇用した場合も労働保険への加入は必要ですか? A1: はい、必要です。雇用形態(正社員、パート、アルバイト等)にかかわらず、労働者を一人でも雇用すれば、原則として労働保険(労災保険・雇用保険)の適用事業となります。ただし、雇用保険については、所定労働時間や雇用見込み日数などの条件を満たす場合に加入対象となります。
Q2: 労働保険料は誰が負担するのですか? A2: 労災保険料は全額事業主負担です。雇用保険料は、事業主と労働者が双方で負担します(負担割合は公式情報源で確認してください)。
Q3: 年度更新の手続きを忘れてしまいました。どうなりますか? A3: 申告・納付期限(7月10日)を過ぎると、追徴金として延滞金が課されます。速やかに管轄の労働基準監督署に連絡し、手続きを完了させてください。故意の未申告等は罰則の対象となる可能性があります。
Q4: 電子申請は必須ですか? A4: 必須ではありませんが、多くの手続きで電子申請(e-Gov)が利用可能です。時間や場所の制約が少なく、効率的な手続きができるため、利用が推奨されています。
Q5: 労災が起きた場合、労働者自身が申請できますか? A5: 労災保険給付の請求は、原則として労働者本人(またはその遺族)が行います。事業主は、必要な証明(事故の状況証明等)を行い、請求手続きをサポートする義務があります。
Q6: 事業を廃止した場合の手続きは? A6: 事業を廃止した場合は、「労働保険関係消滅届」を提出する必要があります。これにより、その事業所に関する労働保険の義務が終了します。
6. リスクとコンプライアンス
- 未加入・未納のリスク:労働保険に加入せず、または保険料を納付しないことは労働保険法違反です。是正勧告に従わない場合、追徴金(延滞金、加算金)の賦課や、過去に遡って保険料を徴収される(追徴保険料)可能性があります。悪質な場合は刑事罰の対象となることもあります。
- 虚偽申告のリスク:賃金総額を過少申告するなど虚偽の申告を行った場合、是正と追徴課税の対象となります。
- 給付請求の遅延:労災や失業時の給付請求手続きが遅れると、労働者の生活支援が滞り、事業主としての責任が問われる可能性があります。
- 免責事項:本記事は厚生労働省等の公式情報に基づいて作成していますが、法改正や個別事例により内容が変わる場合があります。最終的な判断や手続きにあたっては、必ず管轄の労働基準監督署、ハローワーク、または専門家にご確認ください。
7. 参考と出典
- 厚生労働省「労働保険の加入手続き」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/index.html
- 日本年金機構「労働保険料の申告・納付」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/roudouhokenryo/20140603.html(※労働保険料の徴収事務は年金機構が行っています)
- e-Gov 電子申請総合窓口 https://www.e-gov.go.jp/
- 労働保険審査官・労働保険審査会 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/roudoukijun/rousai/hoken_kansa/index.html