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全世界所得課税と居住者区分 — 在日資産家が最初に確認すべき「税務上の立ち位置」
2026-06-13
日本に十年以上住み、年収数千万円。母国には不動産が二件、証券口座が一つ。「日本の収入は日本で申告している。母国の資産は日本とは関係ない」— 在日外国人の資産家から、私たちはこの言葉を繰り返し聞いてきました。そして多くの場合、この認識は誤りです。所得税法第7条第1項第1号は、非永住者以外の居住者に対して「全ての所得」への課税を定めています。母国の不動産収入も、株式の譲渡益も、原則として日本の課税対象です。
税法上の「住所」は住民票ではない
出発点は「自分がどこに住んでいるか」— ただし税法上の意味で、です。所得税法における「住所」は住民票の所在地ではなく、民法第22条にいう「生活の本拠」を指すと解されています。どこで働き、家族がどこにいて、生活の中心がどこにあるか。形式ではなく実態で判断されます。
三つの居住形態と課税範囲
日本の所得税法は、個人を課税範囲の異なる三つの区分に分けています。
| 区分 | 定義 | 課税範囲 |
|---|---|---|
| 非居住者 | 生活の本拠が日本にない | 国内源泉所得のみ |
| 非永住者 | 居住者のうち日本国籍がなく、過去10年以内の国内居住期間の合計が5年以下(所得税法第2条第1項第4号) | 国外源泉所得以外+国内に送金された国外源泉所得 |
| 永住者(非永住者以外の居住者) | 上記以外の居住者 | 全世界の全ての所得(所得税法第7条第1項第1号) |
注意すべきは「5年」という数字です。全世界所得課税への移行は、日本に10年住んでからではありません。過去10年以内の居住期間が合計5年を超えた時点で、非永住者の区分から外れ、全世界課税の対象になります。長く日本で事業や生活をしている外国籍の方の多くは、すでにこの線を越えています。
課税当局は「知っている」— CRSと国外財産調書
全世界課税は自己申告に依存する制度ではありません。共通報告基準(CRS)に基づき、日本は多数の国・地域との間で金融口座情報の自動的交換を行っており、中国との間でも2018年から交換が実施されています。海外の銀行口座の残高や利子等の情報は、本人の申告を待たずに国税庁に届きます。
加えて、国外財産調書制度があります。その年の12月31日時点で合計5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く)は、国外財産調書を税務署長に提出しなければなりません(国外送金等調書法第5条)。正当な理由のない不提出や偽りの記載には、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が定められています(同法第10条)。また、調書の不提出・記載漏れがあった財産に係る申告漏れには、過少申告加算税等が5%加重されます。
二重課税は「正しく申告した者」だけが救済される
母国ですでに課税された所得について日本でも課税されれば二重課税になりますが、そのための調整装置が用意されています。外国税額控除(所得税法第95条)と、日中租税条約をはじめとする租税条約です。重要なのは、これらの救済は両国で適正に申告していることが前提だという点です。申告そのものを怠っていた場合、控除の機会を失うだけでなく、両国の課税当局から同時に追及されるリスクを負うことになります。
構造の問題として捉える
私たちの経験では、問題の多くは「隠そうとした」ことではなく「自分がすでに義務を負っていることを知らなかった」ことから生じています。確認すべきは次の三点です。
- 自分は永住者か非永住者か — 課税範囲が根本から変わります
- 国外財産の合計額はいくらか — 調書義務の有無が決まります
- 母国で納めた税金はあるか — 外国税額控除の適用可能性が決まります
居住者区分・資産の所在・両国の申告状況を一枚の構造図に起こすことが、国際資産を持つ方の税務の出発点です。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。