SEISEI INSIGHTS — M&A
M&Aの着手金は危険信号か — 料金体系の構造で見極める
2026-07-22
日本企業の買収を検討される方から、私たちは着手金についての戸惑いを繰り返し伺います。「着手金を求められた。これは危ない相手なのだろうか」。そう身構える気持ちには理由があります。着手金を受け取ったまま連絡が途絶える事例が現実に報告されているからです。しかし着手金という仕組みそのものが問題なのではありません。問題は、着手金を悪用する者がいることです。本稿では、着手金が何の対価なのか、そして正規の着手金と罠をどう見分けるかを、料金体系の構造として整理します。
着手金は「実際の作業」の対価
着手金が存在するのには理由があります。買収候補の選定、匿名での初期接触、経営者面談の設定、初期的なデューデリジェンス — これらは数週間から数か月に及ぶ実際の作業です。着手金は、この着手段階の作業に対する対価であり、弁護士の顧問料や会計士の診断料と同じ性質のものです。
対極に「完全成功報酬」型もあります。成約まで一切費用を求めない方式ですが、これには構造上の偏りが伴います。成約しなければ報酬がゼロになるため、確度が高いと見た案件に偏る、あるいは早期の意思決定を促す誘因が働きやすくなります。着手金の有無だけで優劣は決まりません。
正規の着手金を見分ける三つの視点
着手金が妥当かどうかは、次の三点で確認できます。
| 視点 | 確認すること |
|---|---|
| 交付物との対応 | 着手金に対し、対象企業リスト・選定レポート・デューデリジェンスの所見といった成果物が示されるか。金銭のみで成果物が伴わないのは危険信号です |
| 成功報酬からの控除 | 正規の実務では、着手金や中間金は最終的な成功報酬から控除されるのが通例です。上乗せで別途徴収されるものではありません |
| 料金体系の透明性 | 各段階の費用構造が明示されているか。初期選定の範囲、着手金の額、成功報酬の算定方法までが文書で示されるかが分かれ目です |
成功報酬の算定には、成約額に応じて料率が段階的に逓減する「レーマン方式」が実務上広く用いられています。どの基準額に、どの料率を適用するのかが契約書に明記されているかを確認してください。
制度上の裏付け
中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」は、手数料の構造や、買い手・売り手の双方から報酬を受け取る場合の開示について、依頼者への明示を求めています。また、M&A支援機関登録制度に登録した事業者は、こうした行動規範の遵守を宣言しています。料金体系を口頭でしか示さない、あるいは双方報酬の有無を曖昧にする相手は、この観点から見極めることができます。
構造の問題として捉える
「着手金を求める相手は詐欺か」という問いは、実は検証しにくい問いです。より確認しやすいのは、着手金が何の成果物に対応するのか、成功報酬から控除されるのか、料金の全体が契約書に明記されているか、という三点です。着手金は本来、終点ではなく起点であり、その先に実際の作業と控除可能な精算が続くはずのものです。
本稿は一般的な制度情報の提供を目的とするものであり、個別の法務・税務相談に該当するものではありません。具体的な案件の検討にあたっては、提携する有資格の専門家をご紹介の上、対応いたします。