SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス
租税条約とは何か — 越境で所得を得る方が最初に理解すべき「二重課税回避」の構造
2026-07-02
「香港で設立した会社なのに、中国子会社からの配当に20%も源泉徴収された」— 越境で事業を営む方から、私たちはこうした相談を繰り返し受けてきました。同じ一件の配当でも、租税条約を適用できるか否かで税率は大きく変わります。その分かれ目を、制度の構造として整理します。
租税条約とは — 二重課税を回避するための国家間の取り決め
租税条約(二重課税回避条約、英語で DTA: Double Taxation Agreement)とは、二つの国・地域が「相手国の居住者が自国で得た所得に、最大どこまで課税するか」を取り決めた合意です。国内法の税率よりも低い上限(限度税率)を定めることが多く、越境取引の実際の税負担を左右します。
三つの基本概念
### 居住者認定
条約が保護するのは「締約国の居住者」です。自分がどの国の税務上の居住者であるかによって、条約を適用できるかどうかが決まります。たとえば中国の企業所得税法第二条は、中国国内で設立された企業、または外国法に基づき設立されても実際の管理機構が中国国内にある企業を居民企業と定めています。
### 恒久的施設(PE)
相手国に固定的な営業の拠点を持つ場合、その拠点に帰属する利益は現地で課税され得ます。中国では企業所得税法実施条例第五条が、この基礎となる「機構・場所」を定義しています。
### 二重課税の排除
同一の所得が二国で課税された場合の調整には、外国で納めた税を自国の税額から差し引く「税額控除方式」と、一定の所得を自国で免除する「免除方式」があります。中国は主に税額控除方式を採り、企業所得税法第二十三条がこれを定めています。
条約の有無で何が変わるか
非居住者(非居民企業)が受け取る配当への課税を例にとります。
| 区分 | 適用税率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 国内法(原則) | 当該所得は20%(企業所得税法第四条第二項)、実施条例第九十一条により10%に軽減 | 中国国内法 |
| 租税条約(内地・香港) | 一般に10%、受益的所有者が25%以上を保有する等の条件を満たす場合は5% | 内地・香港の租税取決め |
同じ配当であっても、条約の適用可否と要件の充足により、適用される税率は変わり得ます。
条約は「自動適用」ではない
重要なのは、条約の特典が自動的に受けられるわけではないという点です。多くの制度では、納税者が主管当局に対してあらかじめ届け出を行い、自らが「受益的所有者」であることを資料で示す必要があります。手続の存在を知らないまま国内法どおりの税率で源泉徴収され、そのままになっている例は少なくありません。
構造として捉える
- 自分・自社はどの国の税務上の居住者か — 条約の適用可否の出発点です
- 相手国に恒久的施設(PE)を構成していないか — 現地課税の有無が決まります
- 適用可能な租税条約と、その限度税率・適用要件は何か — 実際の税負担が決まります
これらを一枚の構造図に整理することが、越境で所得を得る際の第一歩です。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。