SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス

節税・脱税・租税回避 — 三本の線をどこで引くか

2026-06-30

「個人の支出を全部会社の経費に入れています。これは節税ですよね」。経営者の方から、私たちはこの言葉を繰り返し聞いてきました。結論から申し上げると、それは節税ではありません。隠蔽・仮装による経費計上は、脱税に分類され得る行為です。節税・脱税・租税回避は、見た目が似ていても法的な扱いがまったく異なります。三本の線のどこに立っているのかを、構造として理解しておく必要があります。

節税 — 法が明示的に認める制度の利用

節税は完全に適法です。法律が明示的に用意した控除・共済等の制度を用いて、税負担を適正な範囲で軽くすることを指します。小規模企業共済、青色申告特別控除、消費税の簡易課税の選択などが代表例です。これらは法律が表に置いている道具であり、要件を満たして用いることに何の問題もありません。

脱税 — 違法であり、刑事罰の対象

脱税は違法です。収入の隠蔽、費用の架空計上、無申告といった「偽りその他不正の行為」により所得税を免れた者は、十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処せられ、又はこれが併科されます(所得税法第二百三十八条)。現金売上を計上しない、ありもしない費用の証憑を作る、申告すべきものを申告しない — いずれもこの類型に属します。

租税回避 — 形式は適法、実質が問われるグレーゾーン

最も判断が難しいのが租税回避です。個々の取引は形式上適法でありながら、全体として税負担の不当な減少だけを目的とし、事業上の合理性を欠く場合がこれにあたります。たとえば、含み損を作り出すためだけに個人の不動産を自身の会社へ低額で譲渡する、といった構成です。売買という形式そのものは適法でも、唯一の目的が税負担の圧縮にあると評価されれば、別の問題が生じます。

税務当局の対抗手段 — 行為計算の否認

租税回避に対して、税法は「行為計算の否認」という仕組みを用意しています。同族会社の行為又は計算で、これを容認すると法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるものがあるときは、税務署長はその行為又は計算にかかわらず、認めるところにより法人税の課税標準等を計算することができます(法人税法第百三十二条)。個人の所得税についても同様の否認規定があり(所得税法第百五十七条)、組織再編成についても専用の否認規定が置かれています(法人税法第百三十二条の二)。

否認された場合、申告は当局の認定に従って計算し直されます。さらに、その背後に隠蔽・仮装があったと認定されれば、過少申告に代えて百分の三十五、無申告に代えて百分の四十の重加算税が課されます(国税通則法第六十八条)。

区分節税脱税租税回避
適法性適法違法グレーゾーン
定義法が認める制度の利用隠蔽・架空・無申告形式は適法だが実質が不合理
典型共済・青色申告・簡易課税の選択売上除外・架空経費・無申告低額譲渡・循環取引・実体のない法人
帰結なし重加算税+刑事罰(所得税法第238条)行為計算の否認(法人税法第132条等)

判断の分かれ目は「事業目的」

否認されやすい構成には共通点があります。親族間での不動産の低額譲渡、損失を作り出すための循環取引、税負担の軽減以外に存在理由のない法人 — いずれも「その取引・構成に、税負担の軽減を超えた事業上の合理性があるか」という一点で評価されます。唯一の目的が減税であれば、リスクは高いと考えるべきです。

私たちが構造の説明をお手伝いする際の出発点は、次の問いです。その制度は法が明示的に認めたものか。各取引に、税以外の事業上の理由を第三者へ説明できるか。全体の構成が、形式と実質の両面で一貫しているか。節税という大きな道を歩むには、道がどこにあるかを正しく知っておく必要があります。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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