SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス

税務調査の通知が届いたら — 拒否できるのか、何を守れるのか

2026-06-30

月曜の朝、税務署から電話が入る。「御社の状況を確認したいので、日程を調整させていただけますか」。在日で事業を営む経営者の方から、私たちはこの場面の相談を繰り返し受けてきました。多くの方が最初に抱くのは「拒否できるのか」「黙っていてよいのか」という問いですが、その前に押さえるべきは、自分がいま置かれている調査が「どの種類のものか」という構造です。

任意調査と強制調査は別物

日本の税務調査は、法的性質の異なる二つに大別されます。

ひとつは任意調査です。国税通則法第七十四条の二から第七十四条の六までが定める「質問検査権」に基づき、当該職員は納税者に質問し、帳簿書類その他の物件を検査することができます。実務上の税務調査の大半はこちらです。重要な特徴として、実地の調査の前には、原則として調査の日時・場所・対象税目等を事前に通知することが国税通則法第七十四条の九で定められています。

もうひとつは強制調査です。裁判官の許可状に基づき行われる犯則調査で、重大な脱税の嫌疑がある場合に限られ、件数は極めて限定的です。本稿が扱うのは前者、任意調査です。

項目任意調査強制調査
根拠国税通則法第七十四条の二〜第七十四条の六(質問検査権)犯則調査の手続
事前通知原則あり(第七十四条の九)なし(許可状による)
頻度大多数極めて少数
立会い税理士に委任可弁護士が必要となる場面

「任意」だが、拒否はできない

任意調査の「任意」は、応じるかどうかを自由に選べるという意味ではありません。質問検査等に正当な理由なく応じず、検査を拒み、妨げ、又は忌避した者には、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金が定められています(国税通則法第百二十八条)。帳簿の提示を拒むことは、この罰則の対象になり得ます。

それでも、納税者には行使できる手続上の手当てがあります。

  • 日程の調整:通知された日時の都合が悪い場合、合理的な範囲で調整を求めることができます(第七十四条の九の事前通知制度の趣旨)。
  • 税理士の立会い:税理士に税務調査への立会い・対応を委任することができます(税理士法上の税務代理)。実務上、これは強く推奨される対応です。
  • 供述の強要は受けない:日本国憲法第三十八条は、何人も自己に不利益な供述を強要されないことを定めています。ただし税務調査は行政調査であり、刑事手続とは性質が異なるため、この保障の及ぶ範囲は限定的に解されます。帳簿等の提示義務そのものを免れるものではありません。

調査官が見ているもの

私たちの経験では、調査で重点的に確認されるのは概ね次の三点です。

第一に、現金収入の計上漏れ。現金取引の比重が高い業種は、構造的に確認の対象になりやすい領域です。第二に、私的支出の経費混入。家事費が法人の費用に混じっていないか、調査官は個別に確認します。第三に、関連会社間の取引。複数法人を介した取引の合理性です。

最も重要な原則は、事実と異なる説明をしないことです。隠蔽・仮装に基づく申告と認定された場合、過少申告に代えて百分の三十五、無申告に代えて百分の四十の重加算税が課されます(国税通則法第六十八条)。記憶が定かでない事項について「確認して回答する」と述べることと、事実を偽ることのリスクは、まったく次元が異なります。

構造の問題として捉える

税務調査は審判ではなく、平時の記帳と証憑管理の状態が問われる場面です。私たちが整理をお手伝いする際の出発点は、次の三点の確認です。

  • 帳簿と証憑は、調査官の質問に耐える形で整っているか
  • 私的支出と事業支出の区分は、第三者に説明可能か
  • 関連当事者間の取引に、事業上の合理性の裏づけがあるか

調査対応は、通知が届いてから始めるものではなく、平時の記帳構造の中にすでに織り込まれているべきものです。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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