SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス

「オフショアなら無税」という誤解 — 租税条約がない場合に中国で生じる源泉税

2026-07-07

「BVIに法人を設立したので税率はゼロ、完璧な仕組みです」— オフショア法人を用いた資産管理について、私たちはこうした声を繰り返し聞いてきました。確かにBVIやケイマン、バミューダといった法域は、法人の利益そのものには課税しません。しかし問題は、利益が生まれる側ではなく、資金を中国から国外へ流出させる局面にあります。そして多くの場合、この点が見落とされています。

問題は「流出側」にある

配当を中国国外へ支払う場面では、まず中国の国内法に立ち返る必要があります。中国とBVIの間には包括的な租税条約が存在しません。ケイマンともバミューダとも同様です。租税条約がなければ軽減の余地はなく、国内法の税率がそのまま適用されます。

企業レベルでは、非居住者企業が中国を源泉とする配当を受け取る場合、企業所得税法第4条および第27条第5号、同法実施条例第91条により、源泉徴収の税率は10%とされています。個人レベルでは、利息・配当・株式譲渡益等について、個人所得税法第3条が20%の比例税率を定めています。

配当の流出経路根拠となる規定源泉税率
中国 → 租税条約のない法域(BVI・ケイマン等)企業所得税法第4条・第27条第5号、同法実施条例第91条10%
中国 → 中国税務上の居住者である個人個人所得税法第3条20%
中国 → 租税条約のある法域各租税条約の配当条項要件を満たせば軽減

租税条約を締結している法域を経由する場合、配当に対する源泉税率は国内法よりも低く抑えられることがあります。具体的な軽減の幅は適用される条約と要件の充足状況によって異なりますが、条約の有無だけで負担が大きく変わり得るという点が出発点になります。

個人で受け取っても逃れられない

「では法人を挟まず、オフショア法人から個人が直接受け取れば」と考える方もいます。しかし、当該法域が課税しないことと、中国で申告義務を負わないことは別の問題です。個人所得税法第1条は、中国国内に住所を有する個人、または住所がなくとも一課税年度内に中国国内での滞在が累計183日に達した個人を居住者個人と定め、居住者個人は中国国内および国外から得たすべての所得について納税義務を負うと定めています。中国税務上の居住者である限り、国外法人から受け取る所得も申告の対象です。

CRSという第二の現実

国外を含めた申告は、自己申告のみに依存する制度ではありません。共通報告基準(CRS)に基づき、中国は2018年から多数の法域との間で金融口座情報の自動的交換を行っています。BVIはCRSに早期から参加した法域の一つであり、当地の法人口座の残高等の情報は、本人の申告を待たずに中国の税務当局に届きます。「申告しなければ分からない」という前提は、すでに成り立ちません。

構造の問題として捉える

オフショア法人そのものが問題なのではありません。問題は、租税条約による保護があるかのように扱ってしまうことです。仕組みを設計する前に、確認すべきは次の三点です。

  • 資金の流出先の法域は、中国と租税条約を締結しているか
  • 受け取る主体は中国税務上の居住者か — 個人であれば全世界所得が申告対象になります
  • 保有する国外口座はCRSの情報交換の対象か

流出経路・受領主体・情報交換の三つを一枚の構造図に落とすことが、国際的な資産保有の出発点です。


本稿は税制に関する一般的な情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、各法域の有資格専門家をご紹介の上、対応いたします。

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