SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継

生前贈与か、死後相続か — 「どちらが得か」ではなく「どう設計するか」

2026-06-16

「いま住宅を子に渡してしまえば、亡くなってから渡すより税は軽くなりますか」— 資産の承継を考える方から、私たちはこの問いを繰り返し受けます。答えは「場合による」です。設計を誤れば、生前贈与のほうが重くなることもあります。本質は「渡すか・渡さないか」ではなく、「どの制度で、いくらを、何年かけて渡すか」という設計の問題です。日本の制度上、選択肢は大きく三つに整理できます。

三つの経路

第一に、暦年贈与。 贈与税の基礎控除は本則で六十万円ですが(相続税法第21条の5)、租税特別措置法第70条の2の4により、特例として年百十万円が控除されます。つまり一年あたり百十万円までの贈与であれば、贈与税はかかりません。これを超える部分には累進税率が適用され、相続税と同様に高い負担となり得ます。少額を長期にわたって移していく経路です。

第二に、相続時精算課税。 相続税法第21条の12は、特定の贈与者ごとに累計二千五百万円までの特別控除を認めています。その範囲なら贈与時点の贈与税はかかりません。ただしこれは「免税」ではなく「繰り延べ」です。贈与者が亡くなった際、その額を相続財産に取り込んで相続税を計算し直します。二千五百万円を超える部分には、贈与時に一律二十パーセントの税率が課されます(同法第21条の13)。

第三に、何もせず死後の相続に委ねる。 基礎控除(三千万円+六百万円×法定相続人数。相続税法第15条)と配偶者の税額軽減(同法第19条の2)を活かすことで、生前に贈与するより負担が軽くなる場合があります。

経路の比較 — 数字ではなく構造で

経路控除の枠課税のタイミング向いている状況
暦年贈与年110万円(特例)贈与時に都度時間をかけて少額ずつ移す/資産規模が大きく高い税率帯を圧縮したい
相続時精算課税累計2,500万円相続時にまとめて精算まとまった額を早く渡したいが、相続時の再計算を許容できる
死後相続基礎控除+配偶者軽減相続時資産規模が基礎控除の範囲に収まる/配偶者中心の承継

要点はこうです。資産規模が大きい方は、暦年贈与で長期にわたり計画的に移転し、将来の相続財産そのものを圧縮することに意味が生まれます。一方、資産規模が基礎控除に収まる方にとっては、贈与に動くより死後の相続をそのまま使うほうが軽く済むことも少なくありません。同じ制度が、人によって有利にも不利にもなります。

見落とされがちな論点 — 相続前贈与の加算

設計上、必ず織り込むべき点があります。相続税法第19条は、相続の開始前一定期間内に被相続人から受けた贈与を、相続財産に加算して計算し直すと定めています。この加算の対象期間は、従来の三年から七年へと延長されました(加算対象のうち三年より前の部分については、合計額から百万円を控除します)。延長は段階的に適用が進む形をとっており、亡くなる直前にまとめて贈与して負担を避けるという発想は、構造的に通用しにくくなっています。生前贈与を承継設計に組み込むのであれば、年単位の余裕をもって計画する必要があります。

設計の問題として捉える

贈与は、必ずしも税を軽くするわけではありません。ただ一点、贈与にだけ確かな利点があります — 誰に渡したかを、本人が目で確かめられることです。生きているうちに整えるか、遺された家族に委ねるか。資産規模・家族構成・時間軸の三つを一枚に並べ、三つの経路を当てはめてみること。それが、承継設計の出発点です。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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