SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継
生命保険金の非課税枠 — 相続対策における「最も基本的な構造」
2026-06-17
「現金で遺せば相続税がかかるが、保険なら違うのか」— 相続を控えた資産家の方から、私たちはこの問いを繰り返し受けてきました。結論から申し上げると、生命保険金は相続税の対象でありながら、現金とは異なる課税上の取扱いを受けます。その差を生むのが「非課税枠」と「受取人固有の財産」という二つの構造です。
死亡保険金は「みなし相続財産」
まず押さえるべきは、被相続人の死亡によって受取人が受け取る生命保険金は、相続税法上「みなし相続財産」として課税対象に含まれるという点です(相続税法第3条第1項第1号)。被相続人が保険料を負担していた契約であれば、保険金は相続財産そのものではなくとも、相続税の課税価格に算入されます。「保険だから非課税」という理解は、出発点から正確ではありません。
非課税限度額=500万円 × 法定相続人の数
そのうえで、生命保険金には固有の非課税枠が設けられています。相続税法第12条第1項第6号は、相続人が取得した生命保険金について、次の金額を相続税の課税価格に算入しないと定めています。
| 項目 | 非課税限度額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 生命保険金 | 500万円 × 法定相続人の数 | 相続税法第12条第1項第6号 |
| 退職手当金等 | 500万円 × 法定相続人の数 | 相続税法第12条第1項第7号 |
ここでいう「法定相続人の数」は、相続税法第15条第2項に規定する相続人の数を指します。たとえば法定相続人が3名であれば、生命保険金のうち1,500万円までが非課税となります。同じ枠が、死亡退職金(退職手当金等)にも別個に用意されています。
「受取人固有の財産」という性質
生命保険金にはもう一つ、遺産分割とは切り離される性質があります。保険法第42条は、保険金受取人が契約当事者以外の者であるときも、当該受取人は当然に契約の利益を享受すると定めています。受取人が指定された保険金は、受取人がその固有の権利として取得するものであり、遺産分割協議の対象となる相続財産とは区別して理解されています。誰に、どれだけ遺すかをあらかじめ確定させたい場合に、この性質が意味を持ちます。
退職金は「別の税目」であることに注意
なお、経営者ご自身が受け取る退職金は、相続税ではなく所得税の領域です。所得税法第30条は、退職所得の金額を「(退職手当等の収入金額 − 退職所得控除額)× 2分の1」と定め、退職所得控除額は勤続20年以下で1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円とされています。相続税の非課税枠とは制度の系統が異なるため、両者を混同しないことが肝要です。
構造として捉える
私たちが一般的な情報としてお伝えできるのは、ここまでの「制度の枠組み」です。誰を受取人とし、どの財産をどの枠に対応させるか — それは個々のご家族の構成と資産の状況によって変わります。非課税枠の存在を知り、自らの法定相続人の数と保有資産を一枚の図に整理することが、相続を構造として考える第一歩になります。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。