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民事信託 — 国外に出ずに組成できる、日本の家族の信託

2026-07-03

「信託を組みたいが、そのためにオフショアで口座を開いたり、複雑な海外法人を用意したりはしたくない」— 在日の資産家の方から、私たちはこの相談を繰り返し受けます。実は、その多くは日本国内で完結します。日本の信託法が定める「民事信託」は、家族の間で設定できる仕組みだからです。

設定は簡素、設計は簡素ではない

信託法第3条は、信託の設定方法として三つを定めています — 契約、遺言、そして自己信託(公正証書等による意思表示)です。最も多く用いられるのは契約による方法で、当事者の合意で成立します。信託業の免許も信託銀行も必要とせず、家族の間で組成できる点が、商事信託との最大の違いです。

典型的な設計は次のような形です。父を委託者、長男を受託者とし、不動産や自社株式の管理を委ねる。父自身を第一受益者とし、生前の収益は父に帰属させる。父の死後は配偶者を第二受益者、その後は子を第三受益者とする。信託法第91条は、受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する定めのある信託について、信託設定時から三十年を経過した後は現に存する受益者一代までその効力を有すると定めています。遺言が一代しか指定できないのに対し、この「受益者連続型」は数代先までの承継順序をあらかじめ組み込めます。

税は繰り延べられても、消えない

ここで誤解が生じやすい点があります。相続税法第9条の2は、適正な対価を負担せずに信託の受益者等となった者は、その権利を委託者から贈与(委託者の死亡による場合は遺贈)により取得したものとみなす、と定めています。つまり受益権が移転した時点で、相続税または贈与税の課税対象として扱われます。民事信託は税を軽減する仕組みではありません。軽減されるのは、税ではなく手続きの煩雑さです。

なお受託者には、信託法第34条により分別管理義務が課されます。信託財産と受託者自身の固有財産は、区別して管理しなければなりません。子が親の不動産を管理する場合でも、自らの財産と混同することは許されません。

実務上の障壁と、それでも選ばれる理由

民事信託の最大の実務課題は、信託専用口座(信託口口座)です。制度上、信託財産は独立した口座で管理されるべきですが、現実には多くの金融機関が民事信託の口座開設に対応していません。費用面でも、公正証書の作成や司法書士報酬を含め、一定の初期コストがかかります。

それでも民事信託が選ばれるのは、認知症対策と柔軟性の両立にあります。

比較項目民事信託遺言成年後見
判断能力喪失後の資産管理受託者が継続して管理効力なし保全のみ、積極運用は不可
世代をまたぐ指定受益者連続型で数代先まで可一代のみ不可
資産の積極的運用信託目的の範囲で自由家庭裁判所の管理下、原則不可
節税効果なし(受益権移転時に通常課税)なしなし
効力発生契約時に発生死亡後に発生申立て後の審判により

遺言は死後にしか効力を持たず、生前に認知症となれば機能しません。成年後見は裁判所が後見人を選任しますが、財産の「保全」が中心で、積極的な運用は困難です。民事信託は生前から効力を持ち、判断能力を失っても受託者が管理を続け、委託者の死後は受益者が自動的に切り替わります。

私たちの経験では、民事信託の成否を分けるのは法律文書の巧拙よりも、受託者を本当に信頼できるかという一点です。仕組みの中核にあるのは、契約書ではなく家族の信頼です。組成にあたっては、信託契約を起案する司法書士と、受益権移転の税務上の帰結を見通す税理士の関与が前提となります。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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