SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継
生命保険信託という選択 — 保険金を「一度に渡さない」ための仕組み
2026-07-06
私たちは、ご家族のために生命保険にご加入の在日資産家の方から、こんなお話を繰り返し伺います。「自分に万一のことがあっても、妻子は保険金を受け取れる。だから安心だ」。確かに受け取れます。ただし、二つの論点が見落とされがちです。ひとつは税務、もうひとつは「受け取った後」の設計です。
生命保険金は「みなし相続財産」
生命保険金は、被保険者の死亡を原因として支払われるものであり、相続税法第3条第1項第1号により、相続によって取得したものとみなされます(みなし相続財産)。したがって、原則として相続税の課税対象です。
一方で、相続税法第12条は、生命保険金について「500万円×法定相続人の数」を非課税限度額として定めています。配偶者と子二人であれば法定相続人は三人、500万円×3で1,500万円までが非課税です。同じ資金でも、預金として遺せば全額が課税対象になり、保険金の形で遺せばこの非課税枠が働きます。「どの器で遺すか」で結果が変わる、という構造です。
「受け取った後」を設計する — 保険信託
通常の生命保険では、保険金は受取人の口座へ一括で支払われます。若い相続人がまとまった現金を一度に受け取ることが、必ずしも本人のためになるとは限りません。
生命保険信託(保険信託)は、この点に対処する仕組みです。委託者かつ被保険者をご本人とし、保険金の受取人を信託銀行等とします。ご本人の死亡後、保険金は信託銀行に支払われ、あらかじめ定めた設計に従って——たとえば配偶者へ毎月、子へ進学の段階ごとに——分割して給付されます。一括ではなく、継続的な給付です。信託を通じた受益者への課税については、相続税法第9条の2が受益者等課税の原則を定めています。
特定障害者扶養信託という選択肢
受益者が障害のある方である場合、相続税法第21条の4に基づく「特定障害者扶養信託契約」という枠組みがあります。特別障害者を受益者とする場合は6,000万円まで、それ以外の特定障害者の場合は3,000万円までが、贈与税の課税価格に算入されません。通常の生命保険金非課税枠とは別に用意された、手厚い非課税枠です。
活用の類型
| 目的 | 受益者 | 給付の形 |
|---|---|---|
| 遺族の生活保障 | 配偶者 | 毎月の定額給付 |
| 未成年の子の教育 | 子 | 進学の段階ごとの給付 |
| 障害のあるご家族の生涯保障 | 特定障害者 | 生涯にわたる定期給付 |
| 認知症への備え | 委託者本人 | 信託銀行による資産管理 |
信託報酬は主要な信託銀行で概ね年0.3〜0.5%程度が一般的な目安とされ、別途、初期設定費用がかかります。金額の多寡ではなく、「誰に・いつ・どのように渡すか」を設計できることが、この仕組みの本質です。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。