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同じ所得でも税負担が変わる — 個人事業主と法人、その課税構造の違い
2026-06-19
「法人化とは、手続きが一段増えるだけのことではないか」— 所得が伸びてきた個人事業主の方から、私たちはこの問いを繰り返し受けます。しかし、個人として所得を得る場合と法人を通じて事業を行う場合とでは、適用される課税構造そのものが異なります。本稿では、その差がどこから生まれるのかを、節税の効果額ではなく制度の構造として説明します。
差が生まれる三つの構造的要因
個人と法人で課税の結果が変わる主な要因は、次の三点に整理できます。
- 給与所得控除 — 法人から役員報酬として給与を受け取る場合、給与所得の金額は収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算されます(所得税法第28条)。個人事業主の事業所得にはこの控除はありません。
- 累進構造の分散 — 個人の所得は所得税法第89条の超過累進(最高45%)が一体で適用されます。法人を主体とすると、所得は「役員報酬として個人が受け取る部分」と「法人に残る部分」に分かれ、それぞれ異なる税率帯・課税体系で処理されます。
- 損金算入の範囲 — 役員給与は、定期同額給与など一定の要件を満たす場合に損金算入が認められます(法人税法第34条)。法人では、こうした要件のもとで個人事業主より広い範囲の支出が経費として扱われ得ます。
モデル試算 — 年間所得4,000万円の場合
以下は構造の方向性を示すための概算モデルです。社会保険料・各種控除・経費の個別事情により実際の数値は変動します。具体的な税額は有資格者による計算が必要です。
| 項目 | 個人事業主 | 法人化した場合 |
|---|---|---|
| 事業による所得 | 4,000万円 | 4,000万円 |
| 役員報酬 | — | 1,200万円 |
| 所得税・住民税 | 約1,800万円 | 役員報酬部分に課税 |
| 法人税等 | — | 法人に残る所得に課税(基本税率23.2%) |
法人税の基本税率は23.2%(法人税法第66条第1項)、中小法人の年800万円以下の所得部分は19%(同条第2項)です。個人の最高税率帯と比べると、所得を役員報酬と法人留保に分けることで、いずれの部分も最高税率帯に達しにくくなる、という構造が見て取れます。
法人化に伴うコスト
一方で、法人を持つこと自体にコストが生じます。
- 社会保険 — 法人の役員は健康保険・厚生年金への加入が必要となります。
- 決算・申告 — 法人は毎年、決算と税務申告を行う必要があり、その実務にコストがかかります。
- 均等割 — 法人は赤字であっても法人住民税の均等割が課されます。
したがって、法人化が構造的に意味を持つかどうかは、所得の規模とこれらの維持コストの兼ね合いで決まります。一般には、一定以上の所得水準を超えると検討に値するとされますが、その分岐点は個別の状況によって異なります。
「地盤」としての法人
法人化の意義は、単年度の税負担だけにとどまりません。家族での持株構成、事業承継、次世代への資産移転といった設計は、いずれも法人という主体の存在を前提とします。個人事業のままでは選択肢に上がらない構造が、法人を地盤として初めて検討可能になります。法人化は、その後の資産設計全体を支える土台として位置づけられます。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。