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持株会社という設計 — 「稼ぐ機能」と「持つ機能」を分ける
2026-06-22
「すでに事業会社がある。なぜもう一社つくる必要があるのか」。事業が軌道に乗ったオーナーから、私たちはこの問いを繰り返し受けてきました。答えは、機能の分離にあります。事業会社は稼ぐための器であり、持株会社は持つための器です。稼ぐ機能と持つ機能を同じ法人に同居させると、事業のリスクが資産にそのまま波及します。両者を分けることが、持株会社という設計の出発点です。
二層構造の骨格
構造そのものは単純です。上に持株会社を置き、家族が株主となります。その下に事業会社——貿易、IT、不動産賃貸など、実際に事業を営む法人——をぶら下げます。金融資産や不動産は、持株会社が保有する、あるいは個人が保有したまま持株会社へ賃貸する、といった形をとります。
三つの観点
| 観点 | 仕組み | 構造上の意味 |
|---|---|---|
| ① 配当の取扱い | 法人税法第23条:法人間の受取配当の益金不算入(完全子法人株式等は全額、関連法人株式等は利子相当額控除後、その他は50%、非支配目的は一定割合) | 事業会社の利益を持株会社へ移す際の課税構造が、個人で直接受け取る場合と異なる |
| ② 資産の分離 | 持株会社と事業会社は別個の法人格 | 事業会社が負う債務・リスクは、別法人である持株会社の資産に直接は及ばない |
| ③ 承継の器 | 持株会社の株式を通じて事業会社を間接保有 | 次世代へ承継する対象を、事業会社株式から持株会社株式に置き換えられる |
配当については、法人税法第23条が法人間の受取配当の益金不算入を定めています。持株比率の区分に応じて不算入の範囲が異なり、完全子法人株式等であれば全額が益金不算入とされます。個人が直接配当を受け取る場合の課税とは、構造が異なります。
資産の分離は、法人格が別であることの帰結です。事業会社が訴訟・債務・破綻といったリスクに直面しても、別法人である持株会社が保有する資産は、原則としてその影響を直接には受けません。
移転をめぐる留意点 — 「簿価移転」と「低額譲渡」
持株会社を新設し、個人が保有する事業会社株式をそこへ移す際の課税は、移転の方法によって大きく異なります。
- 適格組織再編による簿価移転:法人税法第62条の9(適格株式移転)や第62条の4(適格現物出資)は、一定の要件を満たす場合に、帳簿価額による移転として取り扱う旨を定めています。要件を満たせば、移転時に譲渡益課税が生じない構造となります。
- 暦年贈与の基礎控除:株式を家族へ移す手段の一つが暦年贈与です。租税特別措置法第70条の2の4は、贈与税の課税価格から年110万円を控除すると定めています(相続税法第21条の5の60万円を上書きする特例)。
- 低額譲渡という落とし穴:時価より著しく低い価額での移転は、所得税法第59条(みなし譲渡)や相続税法第7条(著しく低い価額の対価による譲渡=みなし贈与)の対象となり得ます。「安く譲る」ことは、必ずしも税負担の回避にはつながりません。
なお、非上場株式の評価は上場株式と異なる方法によることとされ、評価方法次第で市場価格と乖離した価額が算定される場合があります。承継対象としての株式評価は、専門的な検討を要する論点です。
否認リスクと実態の要請
持株会社は、置けば足りるものではありません。相続税法第64条は、同族会社等の行為又は計算が相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に、税務署長がその行為・計算にかかわらず課税価格を計算できる旨を定めています。重要なのは、会社が存在すること自体が否認されるのではなく、その会社を通じて行った行為が不当な負担減少と認定された場合に否認の対象となる、という点です。
したがって持株会社には実態が求められます。株主総会の開催、子会社の業績管理、資産運用の意思決定——議事録・報告・実際の管理行為が伴っていることが前提となります。
構造として捉える
稼ぐ機能・持つ機能・承継する機能を、それぞれどの器に割り当てるか。持株会社は、その設計のための一つの選択肢です。資産の所在、事業のリスク、次世代への承継方針を一枚の構造図に起こしたうえで、適格要件・実態・否認規定を踏まえて組み立てることが、出発点になります。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。