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稼ぐ・貯める・遺す・出る — ライフサイクルで見る日本の四つの課税局面

2026-06-19

「日本でしっかり稼げるようになった。あとは静かに資産を築いていくだけだ」— 在日の事業家やプロフェッショナルの方から、私たちはこの言葉を繰り返し聞きます。ただ、日本の税制を一枚の地図として眺めると、資産形成の各段階に、それぞれ異なる税が待ち構えている構造が見えてきます。稼ぐとき、会社で稼ぐとき、次の世代へ遺すとき、そして日本を離れるとき。本稿では、この四つの局面に対応する課税の枠組みを、制度の構造として整理します。

四つの局面と対応する税

局面税目根拠条文税率の枠組み
個人として稼ぐ所得税所得税法第89条超過累進、最高45%(住民税10%を加えると約55%)
法人として稼ぐ法人税法人税法第66条基本税率23.2%/中小法人の年800万円以下は19%
次世代へ遺す相続税相続税法第16条超過累進、最高55%
日本を離れる国外転出時課税所得税法第60条の2含み益を「譲渡」とみなして課税

第一の局面 — 個人所得への累進課税

所得税法第89条は、課税総所得金額を区分し、それぞれに税率を乗じる超過累進構造を定めています。最高税率は4,000万円を超える部分に対する45%です。これに住民税(標準10%)が加わるため、高所得帯の限界税率は実質的に55%前後に達します。所得が積み上がるほど、追加で得た所得に対する手取り割合は逓減していきます。

第二の局面 — 法人を通じた所得

同じ事業所得でも、法人を主体とした場合の課税構造は異なります。法人税法第66条第1項は普通法人の基本税率を23.2%と定め、同条第2項は、資本金1億円以下の中小法人について年800万円以下の所得部分を19%とします。なお、これとは別に、一定の中小法人に対し年800万円以下の部分を15%とする時限的な軽減措置(租税特別措置)が設けられている点には留意が必要です。個人の累進構造と法人の比例構造の差が、いわゆる法人化の出発点となる論点です。ただし、法人内に留保した利益を個人が受け取る段階では、改めて所得課税の対象となります。

第三の局面 — 世代をまたぐ移転

相続税法第16条は、相続税の総額を算定するための税率表を定めており、各取得金額の区分に応じて10%から最高55%(6億円超の部分)までの超過累進が適用されます。所得課税を経て形成された資産が、次世代への移転時にもう一段の課税を受けるという、二段階の構造がここにあります。

第四の局面 — 日本を離れるとき

見落とされやすいのが、所得税法第60条の2が定める国外転出時課税です。一定額(有価証券等の合計が1億円)以上を保有し、かつ国外転出の直前10年以内に国内に5年を超えて住所等を有していた居住者が国外転出する場合、その有価証券等を国外転出時に「譲渡したものとみなして」課税します。まだ売却していない含み益が、転出という事実だけで課税対象になる構造です。みなし譲渡による所得は、株式譲渡益と同様の申告分離課税(国税ベースで15%)の対象となります。なお、所得税法第137条の2は、納税管理人の届出等の要件を満たした場合に、国外転出の日から5年を経過する日までの納税猶予を認めています(担保の提供が必要です)。

構造として捉える

これら四つの税は、別々に存在するのではなく、「稼ぐ→貯める→遺す→出る」という資産のライフサイクル上の各段階に対応しています。重要なのは、自分が今どの局面にいて、次にどの局面へ向かうのかを把握することです。居住者区分、保有資産の種類と所在、想定する将来の動き — これらを一枚の構造図に落とし込むことが、長期的な資産設計の出発点になります。年度単位で期限が定められた制度もあるため、対応は年度内に計画的に検討しておく必要があります。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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