SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス
国外転出時課税(出国税) — 1億円の有価証券を持って日本を離れる前に
2026-06-24
「日本で十分に資産を築いた。母国に戻ろうと思う」— こう考える在日資産家から、私たちは「出国そのものに税金がかかる」という制度の存在を知らないまま相談に来られる例を、繰り返し見てきました。手元の有価証券はまだ売っていない。それでも、日本を離れる時点で課税が生じうる。これが国外転出時課税、いわゆる「出国税」です。
制度の趣旨 — 「売る前に出る」を塞ぐ
日本に住む間に値上がりした有価証券を、キャピタルゲイン課税のない国へ移ってから売却すれば、日本は値上がり益に課税できません。これを防ぐため、所得税法第60条の2は、一定の居住者が国外転出をする時点で、有価証券等を「その時に譲渡したものとみなして」譲渡所得等を計算する仕組みを設けています。まだ売っていなくても、課税上は売ったものとして扱われる、という構造です。
適用の二つの要件
この特例が適用されるのは、次の両方を満たす居住者です(所得税法第60条の2)。
- 国外転出の時に有する有価証券等の価額の合計が1億円以上であること
- 国外転出の日前10年以内に、国内に住所又は居所を有していた期間(政令で定める期間)の合計が5年を超えること
両要件を満たすと、未実現の含み益が、みなし譲渡として譲渡所得課税の対象になります。税率は譲渡所得に対する課税として扱われ、住民税の取扱いは出国日によって異なります。
二つの「戻り道」
出国税には、納税者の状況に応じた緩和措置が用意されています。
納税猶予(所得税法第137条の2)。 担保を提供し所定の手続をとることで、納税を5年間(延長により最長10年間)猶予できます。猶予期間中は毎年の継続手続が必要で、猶予に係る利子税も生じます。
帰国時の取消(所得税法第60条の2)。 国外転出後5年(納税猶予を延長した場合は10年)以内に、同じ有価証券等を保有したまま帰国した場合などには、課された出国税を取り消し・減額できます。出国税が、実質的に「移住の有無を見る」仕組みとして設計されていることが分かります。
選択肢を構造で比較する
| 選択肢 | 課税のタイミング | 特徴 |
|---|---|---|
| A. 出国税を負担して出国 | 国外転出の時 | 帰国すれば取消・減額の余地 |
| B. 出国前に売却 | 売却の時 | 通常の譲渡所得課税が確定的に発生 |
| C. 納税猶予を申請 | 猶予(後に帰国で取消/非帰国で納付) | 担保・利子税・継続手続が必要 |
将来の帰国が確実であれば猶予(C)が資金繰り上有利になりやすく、帰国の予定がなければA・Bのいずれが有利かは保有銘柄・含み益・移住先の税制によって変わります。重要なのは、空港に着いてから気づくのではなく、年度内に計画する必要があるという点です。
早めに構造図を描く
国外転出は、移住の決断と同時に進むことが多く、税務の検討が後回しになりがちです。有価証券等の評価額、保有期間、出国の時期、帰国の見込み — これらを一枚の構造図に起こしておくことが、不意の課税を避ける出発点になります。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。
<!-- GATE1-FLAG: 税率15.315%/20.315% は本地法令库(所得税法本体)に税率としては存在せず(租税特別措置法・復興特別所得税法の領域)、条文番号を付さない一般的記述に留め、具体的な税額計算(例: 2297万円)も削除した。 -->
<!-- GATE1-FLAG: 源文「帰国時の取消=所得税法第95条の2」は誤り。DB核験(law_id=7)の結果、第95条の2は外国所得税額控除の特例であり、帰国による課税取消は第60条の2(「国外転出の日から五年を経過する日までに帰国をした場合」)に規定されているため、引用を第60条の2に訂正した。 -->