SEISEI INSIGHTS — 国際税務コンプライアンス

CRSと国外財産調書 — 「母国の口座は日本に知られない」という誤解

2026-06-24

「母国の銀行にある資産は、日本の税務当局には分からない」— 在日外国籍の資産家から、私たちはこの認識を繰り返し聞いてきました。母国に数千万円規模の預金や運用資産があり、日本では一度も申告したことがない。「そもそも日本側が把握できないのだから」という前提です。この前提は、すでに成り立たなくなっています。

申告を待たずに情報は届く — CRS

CRS(共通報告基準、Common Reporting Standard)は、OECDが主導する金融口座情報の自動的交換の枠組みです。100を超える国・地域が参加し、日本と中国の間でも2018年から情報交換が実施されています。

仕組みは単純です。ある国の金融機関が、口座開設時のKYC(本人確認)を通じて口座保有者の税務上の居住地を判定し、その者が他国の税務上の居住者であれば、口座情報を自国の税務当局に報告します。各国の税務当局は、その情報を居住地国の当局へ自動的に送付します。日本の居住者が母国に保有する口座の残高や利子・配当等は、本人の申告を待たずに国税庁に到達します。

「別の身分証で開設した」「日本の住所は記載していない」といった事情があっても、金融機関は複数の指標を用いて税務上の居住者を判定します。情報が届く構造そのものは変わりません。

自ら申告する義務 — 国外財産調書

日本には、CRSとは別に、居住者自身に国外資産の開示を求める制度があります。その年の12月31日時点で、価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する居住者(非永住者を除く)は、翌年の6月30日までに、財産の種類・数量・価額・所在等を記載した国外財産調書を所轄税務署長に提出しなければなりません(国外送金等調書法第5条)。

記載の対象は、預金にとどまりません。

財産の種類記載内容
預貯金金融機関名・口座・残高母国の銀行預金
不動産所在地・面積・評価額母国の居住用・投資用不動産
有価証券銘柄・数量・時価上場株式・投資信託
保険保険会社・解約返戻金貯蓄性保険
その他貸付金・暗号資産等

提出しない場合 — 罰則と加算税

虚偽の記載をして提出した場合、または正当な理由なく提出期限までに提出しなかった場合は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が定められています(同法第10条)。

さらに加算税の調整があります。国外財産調書を適正に提出していれば、後に申告漏れが判明しても過少申告加算税等が軽減され、逆に提出していなかった場合には加重されます(同法第6条)。提出の有無が、本税とは別の負担として効いてきます。この調書の取扱いは、近年では相続税の場面にも影響します。

構造の問題として捉える

私たちの経験では、問題の多くは「隠そうとした」ことではなく「自分がすでに開示義務を負っていることを知らなかった」ことから生じています。確認すべきは次の三点です。

  • 自分は調書の提出義務を負う居住者区分か — 非永住者か否かで変わります
  • 国外財産の合計額は5,000万円を超えるか — 調書義務の有無が決まります
  • CRSで届く情報と、自分の申告内容は一致しているか — 不一致は調査の端緒になります

国外資産の所在・評価額・申告状況を一枚の構造図に起こすことが、国際資産を持つ方の出発点です。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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