SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継
相続税:日本は最高55%、中国はゼロ — 在日中国人世帯が最初に直面する「認知の差」
2026-06-14
中国に不動産を持ち、日本でも住宅を購入した在日中国人のご家族から、私たちはこの言葉を繰り返し聞いてきました。「中国の家には相続税がかからない。だから日本の家にもかからないだろう」。残念ながら、この前提は日本の制度には当てはまりません。日本に所在する財産を相続する場合、その税率は最高で55%に達します。「子に残すつもりだった資産」の半分以上が、納税で失われうるということです。
中国と日本では、相続にかかる課税の「土台」そのものが異なります。本稿では、両国の制度の構造的な違いと、日本の相続税が持つ三つの基本要素を、一般的な税制情報として整理します。
日本の相続税は八段階の累進構造
日本の相続税は、課税対象となる金額に応じて税率が上がる累進構造をとっています。相続税法第16条は、次の八段階の税率を定めています。
| 各取得金額(基礎控除後・法定相続分按分後) | 税率 |
|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% |
| 1,000万円超 3,000万円以下 | 15% |
| 3,000万円超 5,000万円以下 | 20% |
| 5,000万円超 1億円以下 | 30% |
| 1億円超 2億円以下 | 40% |
| 2億円超 3億円以下 | 45% |
| 3億円超 6億円以下 | 50% |
| 6億円超 | 55% |
最低10%から最高55%まで。この「55%」という数字が、中国から来られた方が最初に驚かれる点です。
ただし、誰もが最高税率を払うわけではない — 基礎控除
税率表だけを見ると過大に身構えてしまいますが、実際の課税には大きな緩衝装置があります。相続税法第15条が定める「遺産に係る基礎控除」です。計算式は明快で、3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数で算出します。
たとえば配偶者と子二人、合計三人が法定相続人であれば、基礎控除額は3,000万円+600万円×3=4,800万円。この金額までは、相続税の課税対象になりません。日本の相続税は「持っているだけ」で課されるのではなく、この控除を超えた部分にのみ、先の累進税率が段階的に適用される構造です。
配偶者には大きな軽減措置がある
さらに、相続税法第19条の2は配偶者に対する税額軽減を定めています。配偶者が相続により取得した財産については、1億6,000万円まで、または法定相続分までであれば、配偶者にかかる相続税は生じない仕組みです。一次相続において配偶者が受ける負担は、この措置によって大きく抑えられます。
ただし、これは「一次相続だけを見れば」の話です。配偶者が取得した財産は、その配偶者が亡くなる二次相続で改めて課税対象になります。一次相続での軽減を最大化した結果、二次相続で重い負担が生じる — この連続性こそ、相続を「単年の手続き」ではなく「構造」として捉えるべき理由です。
中国は「ゼロ」、ただし「永遠にゼロ」ではない
一方の中国には、そもそも相続税という税目が存在しません。免税なのではなく、課税制度自体がないのです。アジアでは香港が2006年に、シンガポールが2008年に相続税(遺産税)を廃止しており、現在も本格的に課税しているのは日本や韓国など限られた国・地域です。
もっとも、「現在ゼロであること」と「将来もゼロであること」は別の問題です。中国でも過去に相続税の立法が検討された経緯があり、制度の不存在を恒久的な前提として資産設計を組むことには、相応のリスクが伴います。
構造の問題として捉える
私たちの経験では、在日中国人世帯の相続をめぐる問題の多くは、「制度を知らないまま、片方の国の常識をもう片方に当てはめてしまう」ことから生じています。確認すべき出発点は次の三つです。
- 日本に所在する財産はいくらか — 基礎控除を超える部分が課税対象になります
- 法定相続人は誰で、何人か — 基礎控除額と各人の負担割合が決まります
- 一次相続と二次相続を通してどう移転するか — 配偶者軽減の使い方が変わります
両国の資産の所在、相続人の構成、そして二段階の相続の流れを一枚の構造図に起こすこと。これが、国境をまたいで資産を持つご家族にとっての相続設計の起点です。なお、相続制度には申告期限など年度・期間に係る定めがあるため、相続が発生する前の段階から余裕をもって計画しておくことが望まれます。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。