SEISEI INSIGHTS — 相続・事業承継

中国の相続税は導入されるのか — 在日華人が「制度が動く前」に整えておくべき資産の構造

2026-06-18

「中国に相続税はありますか」— 在日華人の資産家の方から、私たちはこの問いを繰り返し受けてきました。現時点での答えは「ありません」。ただし、それは「今後もない」という意味ではありません。問題は制度の有無ではなく、いつ、どのような設計で導入されるか、そしてその前に何を整えておけるか、という点にあります。

制度の現状 — 「ない」と「これからもない」は別の話

中国には現在、相続税(遺産税)に相当する税目は存在しません。過去には導入に向けた草案が検討された経緯があり、また政府の政策文書のなかで、相続税の導入を将来的な検討課題として位置づける趣旨の記述が見られたこともあります。立法には至っていないものの、制度設計の議論そのものは継続してきた、というのが実態の理解として穏当でしょう。

国際的にみれば、多くの先進国が相続税・遺産税の仕組みを備えています。たとえば日本の相続税は、課税価格の区分に応じて段階的に税率が上がり、最も高い区分では百分の五十五(55%)が適用されます(相続税法第十六条)。中国が将来同種の制度を設けるとすれば、こうした各国の枠組みが一つの参照点になると考えられます。

「導入後」では遅い構造 — 制度に依存しない四つの選択肢

相続税が導入されてから資産を動かそうとしても、多くの制度には移転に伴う課税や時間的制約が伴います。重要なのは、相続税の有無にかかわらず意味を持つ構造を、平時のうちに検討しておくことです。中国法上、次の四つが代表的な選択肢です。

構造法的根拠(中国法)効果留意点
家族信託信託法 第15〜17条信託財産は委託者・受託者の固有財産から区別され、原則として遺産・清算財産に算入されない委託者が唯一の受益者である場合、その死亡により信託は終了し、信託財産は遺産として扱われる(第15条)。受益者設計が前提
生命保険保険法 第42条受益者を適切に指定した保険金は、原則として受益者固有の権利であり被保険者の遺産に算入されない受益者が未指定・先に死亡しているなど一定の場合には、保険金が遺産として扱われる
生前贈与個人所得税法 第2条/契税法 第3条個人間の無償の金銭贈与は、個人所得税の課税所得(第2条が列挙する9類型)に含まれない不動産の贈与には契税(税率3〜5%、契税法第3条)が課される。地域・対象により適用税率は異なる
オフショア・ストラクチャー(CRS・外為管理の枠組み)相続税のない法域に資産の一部を保有する設計CRSに基づく金融口座情報の自動交換、および中国の外国為替管理の規律が前提となる

信託について補足します。信託法第15条は、信託財産を委託者のその他の財産と区別する一方で、委託者が唯一の受益者である場合には、その死亡により信託が終了し、信託財産が遺産として扱われる旨を定めています。つまり「信託に入れれば自動的に遺産から外れる」のではなく、受益者をどう設計するかが結果を左右します。保険についても同様で、保険法第42条は、受益者の不指定など一定の場合に保険金が遺産となることを定めており、裏を返せば、受益者を適切に指定してこそ遺産からの分離が機能します。

構造の問題として捉える

私たちの経験では、問題の多くは「制度が導入されること」そのものではなく、「導入される前にとり得た選択肢を、知らないまま逃していた」ことから生じます。制度は予告なく変わり得るため、こうした検討は期限に追われる前に、年度内に余裕をもって進めることが望ましいと考えます。

確認すべきは次の三点です。

  • 中国国内に保有する資産は何か — 不動産・持分・金融資産で取り得る構造が異なります
  • 受益者・受贈者として誰を想定するか — 信託・保険の効果は受益者設計で決まります
  • 中国と日本のどちらの規律が及ぶか — CRSや外為管理を含め、両国の枠組みを同時にみる必要があります

資産の所在・想定する承継先・両国の規律を一枚の構造図に起こすことが、将来の制度変更に左右されない資産設計の出発点です。


本稿は一般的な税制・法制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務・法律相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

<!-- GATE1: 中国信託法第15〜17条・保険法第42条・個人所得税法第2条・契税法第3条 = china_law.db 核験済 (2026-06-18)。日本相続税55% = japan_law.db 相続税法第16条 核験済。 -->

<!-- GATE1-FLAG: 2004年「遺産税暫定条例草案」の起征点80万元・最高税率50%は法令DBで核験不能(未立法)のため一般化処理。 -->

<!-- GATE1-FLAG: 国発〔2013〕6号「研究在適当時期開征遺産税問題」の具体的文言・文書番号は法令DBで核験不能のため一般的な政策言及として記述。 -->

<!-- GATE1-FLAG: OECD 24/38カ国・米国40%・韓国50%の各国別具体数値は法令DBで核験不能のため削除し、一般的な国際的傾向+核験済の日本55%のみ記載。 -->

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