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信託とは何か — 財産に「独立した人格」を与える仕組み

2026-07-03

「信託をやりたい」— 資産をお持ちの方から、私たちはこの言葉を繰り返し聞きます。多くの場合、その背後にあるイメージは「財産をどこかに隠す」というものです。しかし信託の本質は、隠すことではありません。むしろその逆で、財産に一つの独立した位置づけを与え、特定の目的のためだけに管理される状態をつくる仕組みです。

財産が「誰のものでもない」状態

信託を設定すると、その財産は形式的には委託者の手を離れます。信託法第2条第1項は、信託を「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること」と定義しています。ここで重要なのは「一定の目的」という言葉です。信託財産は、委託者のためでも、管理する受託者のためでもなく、設定された目的のために存在する — この点が、通常の財産管理契約や贈与と決定的に異なります。

三つの法域、三つの発想

信託という制度は世界中に存在しますが、その設計思想は法域によって異なります。おおまかに次のように整理できます。

法域発想の中心特徴
中国(信託法)委託管理型委託者の意思に従って受託者が財産を管理・処分する。委託者の意向が起点
日本(信託法)目的管理型財産は「目的」に従って管理される。人ではなく目的が基準(第2条第1項)
オフショア(例:BVIの信託法制)分離・非介入型受託者が底層の事業運営に介入しない設計が可能で、財産の分離が徹底される

日本の信託法は、上の表のとおり「目的」を軸に据えている点に特徴があります。誰かのために管理するのではなく、あらかじめ定めた目的の達成のために管理する — この発想が、世代をまたぐ資産の承継設計と相性の良い理由です。

なぜ資産承継の中核ツールなのか

信託が国際的な資産承継の場面で繰り返し用いられるのは、ほかの法的手段では実現しにくい一点を実現できるからです。それは、財産を特定の自然人の運命から切り離すこと。所有者が判断能力を失っても、あるいは亡くなっても、財産はあらかじめ定めた目的に従って管理され続けます。

私たちの経験では、相談の出発点を「財産を隠したいのか、それとも財産に自分より長く機能してもらいたいのか」という問いに置き換えると、議論が整理されます。前者であれば、信託は適切な道具ではありません。後者であれば、居住地・資産の所在・承継の順序を一枚の構造図に起こすところから始めることになります。信託とは、財産を隠す道具ではなく、財産に独立した目的と時間軸を与える仕組みなのです。


本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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