SEISEI INSIGHTS — ファミリーウェルス
ファミリーオフィスは「節税装置」ではない — 設立を検討すべき資産規模と、日本における本当の役割
2026-06-25
「友人がシンガポールでファミリーオフィスを立ち上げた。自分も持つべきだろうか」— 一定規模の資産をお持ちの在日のお客様から、私たちはこの問いを繰り返し受けてきました。多くの場合、最初に確認すべきは二つです。ファミリーオフィスは「いくらから意味を持つのか」、そして「日本で設立した場合、何が得られ、何は得られないのか」。
ファミリーオフィスとは何か
ファミリーオフィスは、一族の資産を専門に管理するための組織です。一つの家族だけに仕えるシングルファミリーオフィス(SFO)と、複数の家族が一つのチームを共有するマルチファミリーオフィス(MFO)に大別されます。SFOは投資・税務・法務・事務の専門人材を擁し、相応の運営コストを伴います。MFOはコストを抑えられる一方、個別最適性は下がります。
「税制優遇」を期待すると判断を誤る
シンガポールには、一定の運用資産規模・現地雇用・現地支出といった要件を満たすファンドの所得を免税とする枠組み(いわゆる13O・13U)があり、相続税やキャピタルゲイン課税も存在しません。こうした条件が、多くの富裕層がシンガポールにファミリーオフィスを置く背景にあります。
一方、日本にはファミリーオフィスそのものを対象とした特別な税制優遇は存在しません。日本でファミリーオフィスを設立することは、実質的には一般の資産管理会社(持株会社)を設立することと同じであり、その所得には通常どおり法人課税が及びます。ただし、持株会社が受け取る配当については、受取配当等の益金不算入(法人税法第2条以下の定義に基づく、法人税法第23条第1項)が適用され、一定の範囲で法人間の二重課税が調整されます。この仕組みは、ファミリーオフィス型の構造のなかでも同様に機能します。
日本における意味は「節税」ではなく「統治」
では、税制優遇のない日本でファミリーオフィスを設ける意味はどこにあるのか。答えは管理(ガバナンス)です。資産が一定規模を超えると、必要になるのは税負担を下げる小手先の技術ではなく、次のような統合機能です。
- 複数の法人(持株会社・事業会社・不動産法人)を一元的に管理する
- 税理士・弁護士・司法書士・保険コンサルタントなど外部専門家を束ねる
- ファミリーガバナンス(誰が何を管理し、誰が何を承継し、どのように意思決定するか)を定める
- 日本・母国・第三国にまたがる税務コンプライアンスを統合する
ファミリーオフィスは税の抜け穴ではありません。これまで個別に用いてきた手段(法人化・家族法人・持株会社・信託・保険・贈与)を一つの体系へと束ねる「管理の枠組み」です。
資産規模に応じた現実的な選択肢
私たちが構造の観点から整理しているのは、おおむね次の段階です。
| 資産規模の目安 | 想定される体制 |
|---|---|
| 比較的小規模 | 持株会社+外部税理士 |
| 中規模 | 簡易型ファミリーオフィス(持株会社+外部の税理士・弁護士) |
| 大規模 | 独立したファミリーオフィスの検討(ただし日本では税制優遇なし) |
| 特に大規模 | 海外(シンガポール等)も選択肢。ただし本人が日本居住者であれば全世界課税が及ぶ点が論点 |
重要なのは、「ファミリーオフィスを設ければ税務上の義務を回避できる」という理解は誤りだという点です。まず持株会社を整え、国際税務に通じた専門家とともに家族資産の全体像を棚卸しし、それを土台に法人化・信託・保険・贈与を中長期で計画していく — この一連の整理そのものが、実質的な「簡易型ファミリーオフィス」として機能します。具体的な組み合わせと順序は、有資格の専門家とともに策定する必要があります。
本稿は一般的な税制情報の提供を目的とするものであり、個別の税務相談に該当するものではありません。具体的な申告・税額計算については、提携税理士をご紹介の上、有資格者が対応いたします。