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信託による財産の隔離 — 守れるかを決めるのは「設定の時期」

2026-06-29

「事業が苦しくなったとき、信託を使えば配偶者名義の資産を債権者から守れるのではないか」— 資産をお持ちの経営者の方から、私たちはこうしたご相談を繰り返しお受けしてきました。結論から申し上げると、信託による財産の隔離は法制度として確かに存在します。ただし、その効果を実際に享受できるかどうかは、ほぼ「いつ設定したか」で決まります。

信託財産はなぜ「隔離」されるのか

信託の核心は、財産の所有と帰属を委託者本人から切り離す点にあります。中国信託法は、三つの条文でこの構造を定めています。

第十五条は、信託財産が委託者の固有財産と区別されることを定めます。委託者が唯一の受益者でない限り、委託者が死亡・解散・破産しても信託は存続し、信託財産は委託者の遺産や清算財産には含まれません。

第十六条は、信託財産が受託者の固有財産にも帰属しないことを定めます。財産を管理する受託者の側が破産しても、信託財産はその影響を受けません。

第十七条は、原則として信託財産に対する強制執行を禁じます。例外は法律が定める四つの場合 — 信託設定前から当該財産につき優先弁済権を有する債権、受託者が信託事務を処理する過程で生じた債権、信託財産そのものが負担すべき税公課、その他法律が定める場合 — に限られます。

日本法も同じ構造を備えています。信託法第二十三条は、信託財産責任負担債務に係る債権に基づく場合を除き、信託財産に対する強制執行・仮差押え・仮処分・担保権の実行・国税滞納処分を認めていません。

法域根拠条文隔離の効果
中国信託法第15〜17条委託者・受託者の破産から分離。原則として強制執行不可(法定の4例外を除く)
日本信託法第23条信託財産への強制執行・仮差押え・仮処分等を原則として禁止
BVIVISTA(2003年)第12〜14条ファイアウォール条項 — 外国法・外国判決の効力を原則として認めない

英領ヴァージン諸島の Virgin Islands Special Trusts Act 2003(VISTA)第十二条から第十四条は「ファイアウォール条項」と呼ばれ、外国法域の法律や外国裁判所の判決が当該信託の効力を覆すことを原則として認めません。資産保護を目的とする信託が、しばしばこうした法域に置かれる理由はここにあります。

ただし「債務が生じた後」では遅い

ここが最も重要な点です。信託による隔離は、債務が発生する前に設定されていて初めて機能します。

既に債務を負った状態で、資産を信託へ移転する行為は「詐害行為」と評価される可能性があります。中国信託法第十二条は、委託者が債権者の利益を害して信託を設定した場合、債権者は人民法院に当該信託の取消しを請求できると定めます(この取消権は、取消原因を知った日から一年で消滅します)。

日本でも帰結は同じです。民法第四百二十四条の詐害行為取消権は、債権者を害することを知ってされた行為の取消しを認めます。しかもこの請求は、債権が当該行為より前の原因に基づいて生じている場合に限られます。さらに信託法第二十三条第二項は、委託者が債権者を害することを知って信託をしたときは、信託前に生じた債権を有する債権者が信託財産に対して強制執行できる旨を定めています(ただし信託の時から二年を経過すると適用されません)。

つまり、追い込まれてから設定した信託は、隔離の盾にならないばかりか、取消しや強制執行の対象になり得ます。

構造として捉える

私たちの整理では、信託による財産隔離を検討する際の出発点は、次の三点です。

  • 設定の時期 — 債務やトラブルが顕在化する前か、後か
  • 財産の所在と準拠法 — どの法域の信託法・ファイアウォール条項が適用されるか
  • 委託者と受益者の関係 — 委託者が唯一の受益者か否かで効果が変わる

信託は「被弾してから着る防弾チョッキ」ではありません。制度の効果は時間軸に強く依存します。資産の所在・債務の状況・想定する準拠法を一枚の構造図に起こすことが、検討の出発点になります。


本稿は一般的な税制・法制度情報の提供を目的とするものであり、個別の税務・法務相談に該当するものではありません。具体的な検討に際しては、提携の有資格専門家をご紹介の上、有資格者が対応いたします。

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